151話 身体が重い!?
「力を使いこなすためには、強き心と強き肉体のバランスが取れていることが重要になる。どちらか一方だけではなく、両方鍛えてこそ、意味があるのだ」
ミスラの言葉で始まった修行その二。今度の修行はわかりやすい。エル寺院の裏手にある山。その石段をひたすらに登っていくというものである。
「単に山を登るだけだと侮ってはいけない。この山は初代エンディア王も修行したとされる聖なる地。マナの影響で、普段よりも身体が重く感じるはずだ」
特段変わったところはないように見える普通の山であるが、一歩踏み出した瞬間にミスラの言葉を実感した。明らかにいつもより身体が重い。まるで足が地面に吸い付いてしまっているかのような感覚が身体を襲う。
「重……」
「ここからの修行は、この山で行う。まずは頂上までたどり着くのだ。私は先にいって待っている」
ミスラは、身体が重くなったことに戸惑う私達を尻目に、スイスイとどんどん石段を登っていく。私達も遅れを取るわけに行かないと、ミスラの後に続いて石段へと足をかけた。
だが、想像以上にこの修行はきつかった。すぐに、ミスラの姿は見えなくなり、私達の目の前には、先の見えない石段がどこまで続いていた。
「も、もう……きついです……先に行ってください……」
最初に音を上げたのはナーシェである。リンドヴルムやミズチは何食わぬ顔でどんどんと進んでいくが、これは本当にきつい。筋力の差ではどうしても私達は不利になるのだ。
すっかりリンドヴルムもミズチも先に行ってしまい、私とルウ、ルカとテオの4人は、言葉を発することなく、無言でひたすらに石段を登り続けていた。もはや、弱音を吐く元気すらもなかったのだ。前に進むことだけを考え続け、石段を登る。
そして、無心で登り続けること、しばらくの後に、やっと目の前の石段に終わりが見えたのだ。
「や、やっとついた……」
「遅かったなイーナ!」
リンドヴルムとミズチに遅れることしばらく、何とか私も頂上へとたどり着いた。ルウも、平気そうには振る舞っていたが、息が上がっているのは一目瞭然であった。私達に少し遅れて、何とかルカとテオもたどり着き、残すはナーシェだけとなった。
「ナーシェ大丈夫かなあ……?」
ナーシェの姿が見えたのは、それから30分ほど後のことである。だが、ナーシェも途中でギブアップすることなく、何とか頂上へとたどり着いたのだ。ナーシェは私達に合流するやいなや、地面へと倒れ込み、もう限界と言った様子で言葉を漏らした。
「も、もう…… 足が棒です……」
「よく、此処までたどり着いた!やはりお前達はただ者ではないな!最初から頂上までたどり着ける者は数少ないというのに……」
ミスラは汗一つかいていなかった。一体どんな化け物じみた体力をしているというのか…… 私だって、いままで鍛えてきたという自信はあった。だが、まだまだ鍛錬が足りないと言うことを、まざまざと見せつけられているような、そんな感覚を覚えていた。
「そんなしょげた顔をするな!私も最初は頂上まではたどり着けなかった。ここ最近では、最初から頂上までたどり着けたのは2人、女王ともう1人しかいない。それほどにあなた方は良く鍛えられている!」
「イナンナさんと…… あと1人は一体?」
私の言葉に、ミスラは少し気まずそうな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。
「この国で女王と並ぶほどに天才と称された者がいた。今はもうこの世にはいないがな。女王と決戦をしたのちに、女王に敗れ消え去ったのだ」
「女王と決戦?どうしてそんな……」
さらに追求した私に、ミスラはばつの悪そうな様子で黙りこんでしまう。あわてて私もミスラに言葉を返す。
「ごめんなさい!他国のことなのに……」
「まあ、この国にも色々あったのだ。申し訳ないが、私の口から語ることは出来ない。さあ、そろそろ休憩も終わりにして次の修行に移ろうか!」
「次の修行?」
何とか息が落ち着いてきたナーシェがミスラへと問いかける。ミスラは木刀を私達に手渡し、冷静な様子で説明を始めた。
「第三の修行、模擬実戦訓練だ。この訓練には模擬刀を使う」
「面白い。イーナ、久しぶりに手合わせといこうじゃないか」
ミスラの言葉に、珍しくミズチが笑みを浮かべながら、私へと誘いをかけてきた。私にとっても、ミズチと久しぶりに本気で手合わせできるまたとない機会である。
「ミズチ、私だって負けないよ」




