15話 負けられない戦い
『1番 ヴァルトシュナイデン 448キロ プラス2
2番 エンヴィレーヴ 472キロ プラス4
3番 アスタキサンチン 504キロ プラス16
4番 アナスタシア 456キロ マイナス2
5番 ハレルヤ 494キロ プラス6
6番 ココロ 406キロ マイナス10
……』
「3番ニャ!3番に金貨1枚なのニャ!」
「じゃあ俺は2番に金貨10枚な、良いのかテオ?」
「ルカはなんか4番が来そうな気がするよ……」
「ふふふ、5番に決まっている!金貨2枚だな」
「おいおい、おぬしら、あまり熱くなるなよ……」
――まあまあ良いではないか、わらわも2番じゃな
俺達は競馬場へと来ていた。フリスディカの街はこの地方で一番大きな街らしく、娯楽も充実している。俺達がフリスディカに到着した日、その日は年に一度の大きなレースがやっているとのことで、これはもう行くしかなかったのだ。競馬好きの俺としては!
『伝統の一戦!ダービー!今スタートしました!おっと、3番アスタキサンチン出遅れた!』
「ニャに-!」
『最後の直線回って先頭は2番 エンヴィレーヴ!強い!後続を引き離す!2着は4番アナスタシアか!今エンヴィレーヴ1着でゴールイン!』
「イーナ様すごい!また当てたの!」
「俺がなんのために獣医師になったと思ってるんだ?競馬が好きだったからだぞ? でもルカもすごいじゃないか!4番は分からなかったぞ」
ルカはえへへと笑っている。
「くっ……やるなイーナ!」
ルートヴィヒは悔しそうな表情でこちらを見ている。
「ふふ、まだまだだなルート!」
ルートヴィヒは長くて呼びづらい!というルカの提案で、皆からはルートと呼ばれているのだ。
「悔しいニャ!つぎだニャ!」
テオはまだやる気らしい。
次のレースか……最終レースだな……
俺達は次のレースに出るためにパドックを周回している馬たちの様子を見に行った。
パドックの踏み込み……3番が調子が良さそうだ…… 4番は……いやこれは走れるような状態じゃないだろ……完全に調子悪そうだし…… よし……!
俺は金貨を握りしめ馬券投票所へと向かった。
「3番に……」
「4番に金貨500枚!!」
500枚!?隣には50歳ぐらいのおじさんが額に汗をかきながら必死の形相で馬券を購入していた。
「おじさん……4番はキツイと思うよ」
「ワシの馬なのじゃ!何より今日の負けを取り戻さねばならん!おぬしはどのくらいかけるつもりなのだ?自信があるんじゃろ?」
おじさんは俺を挑発するような目でこちらを見る。いいだろう乗ってやろうじゃないか。
「3番に500枚で!」
俺は今日の勝ち分を全部つぎ込んだ。
――イーナよ大丈夫か?
大丈夫かどうかではない。これはギャンブラーとして負けられない勝負なのだ。
――人間はくだらないの……
「全くだ……」
サクヤとシータはあきれていた。しかしこれは勝負なのだ。
「おじさん一緒に見届けようじゃないの?この勝負の行方を!」
「いいだろう!小娘には負けないわ!」
『見知らぬおじさんが勝負をしかけてきた!』
ファンファーレと共に、本日最後のレースが始まる。
『スタートしました!おっと3番出遅れた!』
何!?
おじさんはニヤニヤした顔でこちらを見ている。まだだ、まだはじまったばかりだ!大丈夫……!大丈夫なはず……!
『馬群は3コーナーへとさしかかった。先頭は4番!おっとここで3番!まくっていく!早くも動いたか!4番はずるずると後退していく』
フッ…… 俺はおじさんの顔を見る。おじさんはこの世の終わりかのような苦悶の表情を浮かべている。勝ったな。
『3番 先頭に立った!これは強い!後続は届かないでしょう!今1着でゴールイン!』
「なんと……」
おじさんはこちらを見る。これだから競馬は止められない。
――そち、やるの……
皆、もはやあきれているような様子だ。しかし、勝てば良いのだ。
『おっと4番、止まってしまった!故障発生か!?』
俺とおじさんはどちらも故障してしまった4番の馬の方を見る。おじさんは走り出したので、俺もおじさんについて行った。
「おい!なんでおぬしまで来る?」
「俺は獣医師だ!馬の医者だ!」
「なんと!?ならばちょうど良い!ワシの馬なんじゃ!診てくれないか!」
職員によってコースの外になんとか運び出された馬に俺達は近づく。そして、俺は馬の状態を見た。
鼻から血が出ている様子を見て、おじさんは取り乱している。
「血が出ているぞ!?助からんのか!?」
「多分、激しい運動のせいで鼻出血を起こしたんだよ。2ヶ月くらい安静に休めば大丈夫だと思う。本当はもう競馬につかわない方がいいと思うけど」
「鼻血ということか?こんな苦しそうになるのか?」
「馬は口で息が出来ないんだ。だから鼻からの出血でも大変なんだよ」
「そうか……とりあえず死ぬような病気ではないんだな……よかった……」
おじさんは安堵していた。まあ詳しい検査はしていないが、特段命に別状はないだろう。
「それより……おじさん大丈夫?お金……?」
おじさんは思い出したようで呆然としていた。
「すまんのう……本当にすまんのう……」
俺達はおじさんと街の酒場に来ていた。全て俺のおごりである。金貨はおじさんに500枚あげたが、それでも3000枚くらいまで増えた。酒が美味い。
「それよりも、おぬしやるな!名はなんと申す?」
「イーナだよ!今流行っている病気について治すために世界を回っているんだ」
「ほう、あの奇病のことか」
おじさんも知っているようだ。
「それよりおじさん馬主さんなんだね!すごいよ!」
おじさんは鼻高々に笑っている。さっきまでの絶望した顔はどこへ行ったのか……
「イーナよ!おぬしには世話になったのう……」
「いいんだよ!一緒に勝負した仲だもの!」
そう、俺とおじさんの間には謎の結束が生まれていたのだ。競馬好きに悪い奴はいないからな!
「本当におぬしは良いやつじゃな!そうじゃ!困ったらワシの所に来るが良い!ワシはおぬしのためならいつでも力になろうぞ!」
少なくとも、馬主と言うことはただ者ではない。俺はおじさんに聞いてみた。
「おじさん、普通の人じゃないよね?なにやってるの?」
「あまり大きな声では言えんがな……」
うんうん……
「王様じゃ!」
俺達は驚愕を隠しきれなかった。
この国は大丈夫なのか……




