146話 私、不審者ですか!?
タルキスを出発した私達は次の目的地であるエンディア国に向かっていた。次第に眼下にはうっそうとしたジャングルのような森が広がり始めた。遙か彼方には海がみえる。すっかり様相が変わった風景を眺めていると、今までとは違う世界に来たと言うことを実感させられた。
「エンディアかあ、海沿いにはいくつか大きな街があるんだったよね?」
「大きな街というと…… ラージバード、そして、エンディアの首都アンドール、エンディア国は西側の方が比較的発展してるみたいですね!このまま行くと、ちょうどアンドールの方向ですから!寄ってみるのも良いかもしれませんね!」
「そろそろちょっと陸に降りたいところだし……!アンドールに向かおうか!もしかしたらタルキス王にも会えるかもしれないしね!」
操縦席のテオの所に向かった私とナーシェは、次の目的地をテオへと伝えた。すると、テオは少し困ったような様子で、私に話しかけてきたのだ。
「アンドールに向かうのはわかったのニャ。ただイーナ様、ちょっとした問題が発生したのニャ……」
「ちょっとした問題?」
「そうなのニャ…… 今までこんなに長い距離を飛んだことがなかったから気付かなかったのだけど、もう飛空船の魔鉱石のエネルギーがぎりぎりなのニャ……一旦アンドールに降りたら、しばらくマナを吸収するまでは、飛行できないのニャ」
言われてみれば、そんな無限に飛行を続けるなんて、いくら魔法の力とは言えど、無理な話である。それでも、しばらくマナを貯めればまた使えるというのだから、魔鉱石の力というのは、大変便利なものである。問題は、それに要する時間がどの位かかるかと言うことなのである。まだシーアンまではせいぜい半分と行ったところだ。それの時間次第では、新たな移動手段も検討する必要がある。
「魔鉱石にマナがたまるのってどの位かかりそうなの?」
「まあ、一週間もかからないとは思うのニャ!ただシーアンまでの距離を考えたら、最低5日…… そのくらいは見て欲しいのニャ!」
アンドールで少しの間、待機する必要はあれど、魔鉱石は放っておいても勝手にマナを吸収してくれるので、特段問題という問題は無かった。むしろ、アンドールの街を見て回るにはちょうど良いくらいの時間である。
それからしばらくの後、私達はついにアンドールへと到着したのだ。アンドールの空港に降り立つと、すぐにアンドール国の兵士らしき人が複数私達の元へと駆け寄ってきた。
「エンディア国へようこそ、停泊許可証と身分証明書はございますか?」
急に身分証明書とはいわれても、ほとんど何も持ち合わせていない。今までアーストリア連邦内ではこんな事を聞かれることはなかったが、ここまで来ると、流石にそうも行かないようである。
「ごめんなさい、何も持ち合わせて無くて……レェーヴ連合という国からやってきたのですが……」
「初めて聞く国ですね…… 何か証明するものはございますか?」
証明するったって……さっきも言ったとおり、何も持ち合わせていないのに、証明なんてしようがない。そして、だんだんと、兵士達の目が厳しくなっていくのを肌で感じていた。そして、周囲に応援の兵士らしき男達が続々と集まってくる。
まずいなあ…… そんな事を思っていると、急に、私を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
「おお、イーナ!まさかとは思ったが…… 久しぶりだな!こんな所で何をしておるのだ!」
「リチャード王! シーアンに向かう用事があったのですが……飛行船のマナ補給のために、アンドールに寄ろうとしていたところだったんです!リチャード王こそ、どうしてここに……」
「エンディア王との会談が終わったところでな!ちょうどタルキスに帰ろうとしていたところだったのだが…… レェーヴ連合を名乗る少女達が騒ぎを起こしていると聞いて、まさかと思って駆けつけたところだったのだよ!」
リチャードは、笑いながら私の問いかけに答えた。そして、困惑している周辺の兵士達に、事情を説明してくれた。
「この者は、我がタルキスの友好国であるレェーヴ連合の代表イーナとその一行である。彼女たちの身元はタルキス王の名をもって保証する!」
「大変失礼いたしました!こちら、停泊許可証になります!」
そう言って、兵士の1人が私に長々と文章が書かれた厚紙を渡してきた。
「イーナ!私はこれからタルキスに帰るが…… 良かったらエンディア王への紹介状を書こう。せっかくだから、レェーヴ連合の事もエンディア国王に伝えてくると良い。きっと何かと協力してくれるはずだぞ」
リチャードはサインをいれた書状を、私に手渡してくれた。
「リチャード王!本当に感謝します!」
「シーアンに向かうと言っていたな。気をつけて行くのだぞ」
そう言うと、リチャードは颯爽と私の元を去って行った。それにしてもどうなることかとは思ったが、まさか本当に、エンディアでリチャードに出会え、そして救ってもらえるとは思っていなかったから驚きである。
空港に飛空船を預け、リチャードからもらった書状をもって、私達はエンディア王の下へと向かった。




