143話 何処かで聞いたような話
東国に行くと言っても、まずは情報収集は欠かせない。未だ、行ったことのない場所。何も知らずに、ただ闇雲に足を踏み入れるのでは、命がいくつあっても足りないであろう。
そういうわけで、早速東国に関する情報を集めるために、私はフリスディカにある図書館へと来ていた。せっかくのフリスディカ観光の機会ではあったが、リンドヴルムもルウも私に付き合って、一緒に東国に関する文献を漁ってくれていた。
今更ではあるが、文献によると、この国をはじめとするアーストリア連邦は、世界の中心にそびえる、アルーシア大陸の西端に位置するようである。
アーストリア地方は北、西、南を海に囲まれているようだ。西側はまだいった事は無いが、レェーヴ連合から西に行くと、小さな国々、そしてすぐに海があるらしい。
さらに、ア-ストリアの南側、私達も一度超えた海は、メディアン海という名前がついているらしい。その海を越えた先には、ル・マンデウスなど未開の地が広がっている南の大陸がある。
今回私達が向かうのは、東側だ。東国に向かうのには、主に二つのルートがあるようだ。まずは、タルキスから、北東に抜け、山岳地帯を抜けていくルート。古くから交易で栄えたとされるこのルートは、途中にもそこそこの規模の街がいくつか点在しているようで、比較的街道も整備されているようである。
そして、もう一つが、タルキスから、南東に抜け、アレナ聖教国、そして、アレクサンドラが口にしていたエンディア国を通っていく、海岸線ルート。こちらは近年、飛空船や船といった乗り物の発達に伴って、発展を遂げてきたわりかし新しいルートである。まだまだ発展途上と行ったところではあるが、やはり交通が盛んということで、急速に発展を遂げた大都市もいくつか存在しているようである。
いずれにしても、そのルートを越えた先で行き着く場所は同じである。アルーシア大陸の東側に広がる、シーアンと呼ばれる地。おそらくは、そのシーアンがアレクサンドラの行っていた目的地なのであろう。
それにしても……
「なんか……似てる気がするんだよなあ……」
「何がですか?」
「いや、なんでもない!私の独り言だよ!気にしないで!」
ここで考えても、仕方の無いことだ。まずは、地理的な情報がつかめた。後は、その途中にあるエンディア国、そして目的地であるシーアンがどんな場所なのかと言う事である。
「イーナ様!見てください!」
ルウが、読んでいた分厚い本を指さし、私を呼んだ。
「昔、探検家として名を馳せた方の本らしいのですが、東国に関する記述がありそうなんです」
ルウの言葉に私とナーシェもつい興奮してしまい、ルウの元へと駆けつけた。
「東方録……」
その分厚い本は、遙か昔、まだ船による移動も十分に発達していない頃、ある1人の探検家が、アーストリアから東へ東へと冒険をしたというものであった。ナーシェが書かれてある文章を口にして読んでいく。
「エンディアの地。独自の神々を崇拝するこの地域では、古くからこの地域に伝わる秘術を伝承しているようだ…… 秘術って一体なんのことなのでしょう?魔法のことですかね?」
「まあ、面白そうな話題ではあるけど、行ってみないとわからないよ!ナーシェ!その次は!」
「えーっと…… あ、見てください!イーナちゃん、その先にシーアンの記述がありますよ! ……大陸の東端に位置するシーアン。神が大量に住むと言われる大地は、まさしく我々にとっても衝撃的な光景であった。空を支配する赤き神鳥。そして、大地の守り神とされる山ほどの大きさの亀…… これって……」
「おそらく、鳳凰と霊亀のことだろうね……」
「やはりシーアンとやらに行けば何かがつかめそうですね」
「そうだね、アレクサンドラの言っていた事もあながち嘘ではなさそうだし……」
3人で真面目な話を繰り広げていると、リンドヴルムの興奮した声が、私達の耳へと届いた。
「イーナ!イーナ!見てくれ!」
「どうしたのリンドヴルム?」
「この本を見てくれ!」
きっと、リンドヴルムも何か重要な手がかりになりそうな物を発見したに違いない。私達は期待に胸を躍らせながら、リンドヴルムの持っていた本へと目を移した。
「えーっと…… 東国の酒集……?」
「そうだ!東国にはこんなに魅力的な酒があるそうだ!特にこの霊酒と呼ばれる酒!これは美味に違いない!大変だ!早く行かねば!」
「リンドヴルム……」
思わず、3人の大きなため息が図書館へとこだました。




