142話 招待状
どうして、アレクサンドラがフリスディカに……
いや、それよりも完全にアレクサンドラに背後を取られた。もし、アレクサンドラが私を始末しようと思えば、もうすでにやられていてもおかしくはない状況である。
「アイルの敵でも討ちに来たの?」
私は、そのまま後ろを振り向くことなく、声の主であるアレクサンドラに対して話しかけた。後ろを向こうにも向けなかったと言うのが正しかったのかもしれない。
「敵討ちだなんて、そんな仲良しというわけでもないさ。言っただろ。話をしようじゃ無いかって」
「話?一体何を話すって言うのさ?」
アレクサンドラは、私の吐き捨てるような問いかけに、少し小さな笑い声を発した後に、そのまま続けて語りかけてきた。
「あたしは、あんたのこと結構気に入ってるんだイーナ。だから、ちょっとした情報を与えてやろうと思ってね」
「情報?」
背面越しの対話は続く。
「そうさね、アイルを倒したご褒美さ、あんたにはいつも面白いものを見せてもらえる。本当に感謝しているんだイーナ」
「ご託はよしてよ。で、情報って何?」
「まあまあ、結論を急ぐもんじゃないよ。年寄りの話は聞くもんだイーナ」
一体何を企んでいる?どうして、私に会うためにわざわざこんな所まで来たのだろうか?そんな事を考えていると、再びアレクサンドラが口を開いた。
「あたしらの次の目標、それは東国さ。ここより遙か東、アレナ聖教国を超え、その先にある、エンディア国を超えた先、その地にあんたの求めるものもあるはずさ」
「私の求めるもの?」
「そう、東国の地には、古くから多くの伝説がある。数十年に一度現れ、大地震を起こすと言われる霊亀、それに雷を支配するもの麒麟、そして空の王者、鳳凰。あんたならぴんとくるんじゃないかと思ってね……」
霊亀、麒麟、そして鳳凰。確かに、使徒と呼ばれる生き物たちの名。もしアレクサンドラの言っている事が本当なら、私の向かうべき場所は東国であることは明白である。だけど……
「アレクサンドラ…… 一体何を企んでいるの? それを私に話してどうするつもり?」
「どうするかは、あんた次第さイーナ。あたしははなから世界がどうこうと言った話には興味が無いのでね。あたしの求めるものは、マナの力。そして知識。ただそれだけなのさ。あんたらの力は本当に面白い。本当はもっと近くで色々と調べさせて貰いたいところではあるが……」
そのまま、背後にいたであろうアレクサンドラの気配は消えた。私の頭の中はすっかり混乱してしまっていた。何故、自らの組織の目標を私にバラしたのか。普通に考えれば罠であろう。
だけど、罠だとわかっていても、行く価値はある。どうせこのまま放っておけば、奴らはまたろくでもないことをしでかすに決まっている。
そんなことを考えながら、すっかり人気の無くなった路地裏を、私は大通りに向けて戻っていった。
………………………………………
「イーナちゃん!リンドヴルム君見つかりましたよ!」
ナーシェとルウの元に戻ると、すでにリンドヴルムも戻ってきていた。
「イーナ!危うく迷子になるところだったな!」
「リンドヴルム様……一体誰のせいでこうなったと思っているんですか……」
「はは、すまんすまん!イーナ!俺を探しに行ってくれたと聞いた!ありがとうな!」
だが、私は先ほどのアレクサンドラとの会話ですっかり頭の中が一杯になっていた。そんな私の様子を変に思ったのか、ナーシェが心配するかのように語りかけてきた。
「イーナちゃん?何かあったんですか?」
「うん、そこでアレクサンドラにあった」
私の言葉に、一気にみんなの表情が凍る。ルウやリンドヴルムにとっては、どうあがいても敵でしかないのはわかっていたから、その気持ちもよくわかる。さっきまでの表情とはすっかり変わって、リンドヴルムが静かに口を開いた。その語気には怒りすらも感じられた。
「ガルグイユをやった奴の…… 片割れか?」
「それで、一体アレクサンドラさんは何をしに?」
ナーシェが問いかけてきた。私は、アレクサンドラが言っていたことを、自分自身の頭の中で整理しながら、ゆっくりと話していった。
「奴らの次なる目標は、東国…… 一体何を企んでいるのかまでは教えてくれなかったけど…… そこには、鳳凰、そして、麒麟や霊亀といった使徒と呼ばれる者達もいるらしい」
「イーナ!俺は放っておけない。あいつらまたろくでもないことをしでかすに決まっている。もし、何か企みがあるというのなら、全力で阻止させてもらう」
「イーナ様。私も同感です。奴らは、ガルグイユ様を葬りました。このまま奴らの好き勝手にさせるのは黒竜の名折れです」
「イーナちゃんはどうするおつもりなんですか?」
唯一冷静であったのはナーシェである。ナーシェはいつもと変わらない様子で、淡々と私に問いかけてきた。私の返答を待ちわびるかのように、ルウとリンドヴルムは一心に私を見つめている。
「私は……」
皆が息をのむ。もうすでに心は決まっている。そう、例え私達を誘い込む罠が待っていたとしても、せっかく築けつつあった平和な世界を、世界を滅ぼしうる地価かなんだか知らないが、ぐちゃぐちゃにされては、たまったものではない。一体何を企んでいるのかは知らないが、私は、私の正義のために、全力で立ち向かうつもりであった。
「私も行きたい!」




