141話 都会にはいろいろな人がいます
「アルヴィスに続いて、アイルまで失うことになるとは……」
「アレクサンドラ~~アイルのお目付役だったんじゃないの~~?」
「あたしゃ知らんよ。きちんと、任務は達成した。調子に乗って遊びたいとか言った、あのバカが悪いんさね」
「それにしても、2人もやられたまま黙って居るというのもね」
「やめときな、エール。あんたも死ぬだけさ」
「そう、今は無駄に犠牲を出すべき時ではない。邪魅の復活。それこそが我々の使命だ。次なる目標は、東国……ここより遙か東にある地に眠るとされる伝説の調査だ」
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私の元に平和な日常が戻ってきた。しばらく、レェーヴ連合を離れていた分、私の元には大量の雑務がたまっていた。主に、フリスディカにある、王立医学学校との提携に関する仕事である。
「あーーー!もう嫌だ!!!また冒険に行きたい!!!息が詰まる!!」
「イーナ様。少し休憩なさっては?」
ルウが、お茶とちょっとしたつまみを持って私の部屋を訪れてくれた。あれからルウは、部屋に篭もりきりになった私や、病院で診療に励むルカ、ナーシェ達を支えるために、身の回りのことを全てこなしてくれていた。全くありがたい話ではある。
「ありがとう、ルウ。でもこれ明日までに何とか終わらせないといけないから……」
「ルウも楽しみにしています。フリスディカに行くのは初めてですから」
何故ここまで焦って仕事をしているかというと、明日フリスディカに旅立たなければならないからである。数日後には、医学学校との提携に関する重要な会議が控えていた。
今回、フリスディカでの会議には、私、そしてナーシェが参加する。ルウとリンドヴルムには、背中に乗せて貰って、その代わりに、フリスディカの街を案内する。そういう予定になっていた。
「私、大きな街になんて行ったことないですから…… リラの街でも都会過ぎて驚きました」
「フリスディカに行ったら驚くよ。私が今まで見てきた街の中でもトップクラスに大きいから!」
「そんなところ、私なんかが行って大丈夫でしょうか……迷って帰ってこれなくなったりしませんか……?」
ルウは少し不安そうな表情でそういった。人間の街、それも大都会と言えるような街に行くのだから、無理もない。
「大丈夫!大丈夫!私達もいるから!さあフリスディカの為に、もう一踏ん張りしようか!」
私も久しぶりのフリスディカが楽しみで仕方無かった。色々ありはしたが、やはりしばらく住んでいたフリスディカは、私にとってもこの世界で第2の故郷のように思っていたのだ。
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「すごいですね……!なんて都会なんでしょうか……!周りに山がないなんて……!」
次の日、何とか仕事を終えた私達はフリスディカの街を訪れていた。あまりの賑わいに、ルウは呆然と人の流れを眺めていた。
「とりあえず、仕事は明後日からだから!今日と明日はフリーだよ!せっかくだから、観光でもしようか!」
フリスディカには、沢山の娯楽がある。それこそ、私達の国など比べものにならないほどに。ショッピング、それに食べ物、そして競馬場。初めて触れる人間の文化に、ルウはすっかり夢中になっていた。
「ルウちゃん!あの服とか、ルウちゃんに似合うんじゃないでしょうか!」
「ええ!ナーシェさん……私、あんなひらひらのついた服なんて着たことがないです……恥ずかしいです……」
「ほらほら!ちょっと着てみて!」
やはり女の子なんだなあ……そんな事を思いながら、眺めているとリンドブルムが退屈そうな様子で、私に話しかけてきた。
「おい、イーナ。あいつら、いつまで買い物をしているつもりなんだ……早く、次の所へ行きたいぞ!」
「まあまあ、女の子には色々あるんだよ!」
「そうなのか……?よくわからんが……まあ、あいつらが楽しんでいるのならいいか!それにしても!俺は、早く飲みたいぞ!」
リンドヴルムはすっかり酒に夢中になっているようで、飲みに行くのを今か今かと心待ちにしているようであった。
「む…… なんか良い匂いがするぞ!」
そう言いながら、リンドヴルムはふらふらと匂いの方へと引き寄せられていった。そのまま人混みへと消えたリンドヴルムは、しばらく立っても戻ってくる気配がなかった。
「ナーシェ!ルウ!ごめん!リンドヴルムがはぐれたみたいだからちょっと探しに行ってくるね!」
私の言葉にナーシェが、リンドヴルムを心配するように、問いかけてきた。
「大丈夫ですか?リンドヴルム君……私達も一緒に探しに行きましょうか?」
「良いよ!良いよ!もしかしたら戻ってくるかもしれないし!2人はこの辺りで待ってて!」
「全く、リンドヴルム様は……」
ルウもすっかりあきれた様子で、静かにそう口にした。
まあ確かに、遠くに行ってしまわないうちに、早く探し出さないと。なかなかこの広い街で人探しというのも難儀である。
「リンドヴルム-? どこ行ったの-?」
そう、声をかけながら、探し回ったが、すっかり雑踏に飲まれてしまい、全くリンドヴルムが見つかる気配はなかった。
「リンドヴルム……?」
ちらっと動く影が、まるで私を誘うかのように、路地裏へと消えていった様な気がした。私はその影を追いかけて、路地裏へと入り込んだ。少し歩きを進めたが、誰もいる気配はしない。おそらく勘違いか何かだったのだろう。
「まあ、こんな所にいるわけないか!」
とりあえず、大通りの方に戻ろう。きびすを返し、路地裏を後にしようとしたその時、背後に誰かの気配を感じた。振り向く間も無く、私を呼ぶ声が、静かに響き渡る。
「イーナ。久しぶりじゃないか?少し話でもしようじゃないか」
それは良く聞き覚えのある声であった。そう、確かにアレクサンドラの声であったのだ。




