138話 私達の国へようこそ
新章突入です!
「調子はどう?ファフニールさん? 」
「ああ、大分動けるようになってきたよ」
レェーヴ連合の首都リラに戻った私達は、すぐにファフニールの治療を行った。ル・、マンデウスとは異なり、私達の病院ならある程度の設備はある。衛生的な環境さえ整っていれば、治療自体はそんなに難しいものではなかった。
なによりも、私が驚いたのは、ファフニールの回復力である。治療が終わり、少しずつリハビリを進めていたが、ファフニールはまだおぼつかない足取りではあったが、すでに自力で歩けるようになったのである。
「このままだと、もうすぐに退院できそうだね!」
「本当にイーナには感謝しかない。私の治療の間、スウとルウの面倒までみてくれて……」
「むしろスウとルウが手伝ってくれて大助かりだよ!こちらこそありがとう!」
ファフニールの治療の間、スウとルウは私達の身の回りの世話をしてくれていた。
せっかくだから、ゆっくり私達の街を楽しんで貰いたいところではあったが、ファフニールを治療して貰っているのに、私達だけ遊んでいるというわけにも行かないと、2人は料理や洗濯、それに病院の掃除など、毎日私達を支えてくれていたのだ。
だけど、ずっと働きづめというのも、もったいない。
「ファフニールさん!リハビリがてら、街でも歩いてみない?せっかくだしスウとルウも一緒に誘ってさ!」
「いいのか!イーナ!そうしてもらえるとありがたい!」
「今日はもう診療の予定も入っていないしね!スウ!ルウ!」
私が2人の名を呼ぶと、スウとルウはすぐに私達の元へとやってきた。
「お呼びでしょうか。イーナ様」
「お呼びでしょうか。イーナ様」
「今日はみんなで街に行こう!ファフニールさんも大分回復してきたし!」
「ですが、イーナ様。スウはまだ掃除が……」
「そんなのいいんだよ!ここに来てからずっと手伝ってくれてるし、本当に助かってる!今日くらいは一緒に遊びに行こうよ!ほらほら!もう掃除は良いから!早く準備して!」
パタパタと部屋を出ていくスウとルウを尻目に、ファフニールは口元を緩ませながら、私に向かって口を開いた。
「それにしても、すっかりスウとルウとも打ち解けたようだな。私以外にあんな表情を見せた2人を初めて見たよ」
そういうファフニールの目は、まるで自分の子供の成長を嬉しそうに見つめる母親のようであった。同時に、何処か寂しげな表情も私には感じられた。
「ほら!ファフニールさんも!着替えて着替えて!私はみんなを呼んでくるから!」
………………………………………
「アレはなんですか。なんだかとても私達を誘うような香りが……」
「アレは駄目よルウ。とても危険な香りがするわ」
「危険じゃないよ!ほらスウとルウも食べてみなよ!」
ルカに差し出された、牛肉の串焼きを頬張るスウとルウ。口に入れるやいなや、2人は一気にとろけてしまいそうなほど、甘美な表情へと変わった。
「なんですか。これは。こんな美味しい肉。初めて食べました!」
「ええ。そうねルウ。ケルベロスの肉なんて比べものにならないほどに美味しいわ」
その言葉に、私はつい苦笑いを浮かべてしまった。横目にナーシェの方を見ると、ナーシェも何処か気まずそうに苦笑いを浮かべていた。ケルベロスの肉は……もうあんまり思い出したくはないな……
「それはね!タルキスって言う国から仕入れている牛肉なんだよ!」
「牛肉……一体どんなモンスターの肉なんでしょうか……」
スウとルウは少し考えては、ぷるぷると首を振りながら、必死に牛の姿を想像しているようだった。一体どんな化け物みたいな姿を想像しているのだろうか。
「ぜひ、私も一口もらえないだろうか?」
ルカが差し出した肉を、頬張ったファフニールはすぐに恍惚の表情へと変わった。そして突然、興奮した様子で、ファフニールは大声を上げた。
「うまい!なんて美味さだ……!」
ファフニールのこんなに興奮して嬉しそうにしている表情を私は見たことがなかった。スウとルウも、驚いた様子で、ファフニールの姿をじっと見つめていた。
串を軽く平らげたファフニールは、なおも興奮冷め止まぬと言った様子で、私に問いかけてきた。
「イーナこれはどうやって作るのだ!」
「どうやってって……肉を焼くだけじゃないかな? よくわからないけど……」
「なんと……!焼くだけでこんなに美味いものなのか…… こんなに柔らかくなるものなのか!人間の世界は恐ろしい……」
それからも、ファフニール一行の興奮が止むことは無かった。モンスター達の活気が溢れるリラの街は、彼女たちにとって全てが新鮮な世界だったのだ。
「なんて……なんて楽しいところなんだ……」
「ルウはもうここに住みたいです……」
すっかり、満喫して、私達は病院への帰途へとついていた。すると、ファフニールは、人が集まっている方を指さし、私に問いかけてきた。
「イーナ。あの人だかりはなんだ。みな顔を赤らめて楽しそうにしているぞ」
「ああ、アレは…… また今度ね!」
ファフニールが指した先は、街の中央にある酒場であった。夜が近づくにつれ、モンスター達の憩いの場として、皆が楽しむ酒場。だけど、まだファフニールは病み上がりだし今日はまだ駄目だ。
興味が止まないのだろう。ファフニールとスウとルウはじーっと、人だかりの方を見つめていた。すると、突然に、聞き覚えのある大声が私の耳へと届いた。その声は、ファフニールやスウ、ルウも良く知っている者の声であった。
「おい!シータ!今日こそ!俺はお前には負けん!」
「良い度胸だ!リンドヴルム!受けて立つ!」
皆はあきれた表情を浮かべながら、その声の主の姿をただ眺めていた。




