14話 人間界なのに鬼しかいなくない?
「お前は……?あのときの」
俺がそう言うと、ルカの表情も一気に変わったようだ。怒りよりは混乱と言った方が正しいのであろう。そして、俺の言葉を無視して、女の子は続けた。
「そいつらの目的はね~~ヴァンパイアが育てていた植物だよ!」
「植物だと…… 俺達が育てていたサティバの葉のことか?」
ヴァンパイアの男は問いかけた。
「ホントはわたしたちも欲しかったんだけどね~~!まあそういうわけでアルラウネの里に行ったんだけどさ~~!見事に邪魔されちゃって!」
ルカは今にも飛びかかりそうな様子で、二人を見つめていた。俺もなんとか感情を落ち着けて話を続けた。
「お前らではないのか?」
「違います。そいつらは人間です。おそらくは」
女の子の代わりに、黒髪の男が答えた。以前とは異なり、非常に丁寧な物言いで。そして男は続けた。
「そのことも含め、あなたとお話がしたかったのです。九尾よ」
ヴァンパイアは混乱していたが、九尾という言葉に反応しこちらを見た。
「うるさい!お前と話すことなんかない!」
ルカは我慢出来なかったのか、男に向かって火の玉を飛ばそうとした。
「ルカ!やめろ!」
俺の言葉にルカもなんとか耐えたようだ。
「大丈夫、今こいつらは攻撃はしてこないはずだ。たぶん……」
確証はなかったが。なによりこいつら、特に女の子の方はおそらく強い。ルカでは敵わないだろう。
「いいね~~話が早くて助かるよ~~!」
女の子に続いて、再び男が話を続けた。
「アルラウネの里でのことは謝らせて頂きます。なんとかお話を聞いてもらえないでしょうか?」
俺が無言でいると、男はそのまま続けて話しだした。
「わたしたち夜叉族は、人間のすぐそばで生きてきました。いわゆる闇社会というやつです。わたしたちの力を利用すれば、人間は権力も金に手に入れられる。そして、わたしたちの祖先は人間を利用し人間のそばで大きな力を蓄えてきたのです」
こいつら……
「しかし、最近、我々の世界にまで奴らは侵入してきました。裏で、金や武器を取り扱う強大な組織が出来上がったのです」
「麻薬シンジケート……」
「そうです。そいつらは薬を売買し、新しい武器を作り、こちらも無視出来ぬ存在へと今や成長したのです。そして、今や世界を手中に収めようとしている。だからこそ、我々も奴らと渡り合える力が必要でした」
「しかしお前ら、神通力は使えるだろう?人間くらい簡単に倒せるんじゃないのか?」
「いくら夜叉とは言えど数の暴力の前では分が悪い。それに夜叉の中では人間側に移動するものまで現れた始末、武力で渡り合うのは得策ではありません」
――くさっとるのう
「そのとおりかもしれません、今や夜叉も崩壊寸前、だからこそ力が必要なのです」
「それで、結局何を話したかったんだ?」
「簡潔に言います。ヒポクラテスの実、あれを我々にも流してもらえないでしょうか?」
「俺達に……妖狐に戦争に加担しろとでも言うのか?」
「そこまでは言いません。ただ流して頂ければ大丈夫です」
「それで、俺達にはどんなメリットがあるんだ?」
そこまでリスクのあることは、当然ベネフィットがなければ話にならない。
「金や武器、あとは人間界での口ぎき、我々のコネクションを利用出来るように致しましょう。それに、万が一人間が妖狐の里に手を出したときには、手を貸すことを約束しましょう。今我々と妖狐の里がぶつかるのは得策ではないはずです。あなたなら判断出来るでしょう」
たしかに、夜叉は武器を持っている。妖狐の街へ攻めてでも来られたら被害は確実に出るのは目に見えていた。
「ヒポクラテスの実をねらって、人間がいつ攻めてきてもおかしくは無いということか」
正直、気に食わないが仕方が無い。妖狐を守るためでもある。
「サクヤどうする?」
――わらわは難しいことは分からぬ。そちにまかせる
仕方が無い。
「良いだろう、その代わりお前らの戦争には俺達は関与しない。つぶし合うなら勝手にやってくれ」
「そうはいっていられないかもしれないよ~~!奴ら最近すごい兵器を開発しているみたいだし~~!夜叉の次はいつ妖狐に矛先が向くか分からないからね~~!」
「すごい兵器?」
俺が聞き返すと、女の子は答えた。
「生物を使った兵器だよ~~!」
もしや……
「寄生虫……」
俺が呟くと、女の子はにっこりと笑った。
「まあ、悪いようにはしないからさ~~4神の一族同士、協力したいよね~~!!あ、わたしアマツって言います!夜叉の族長の娘だよ~~!以後よろしく!」
アマツと名乗った女の子に続けて黒髪の男も名乗る。
「私はセンリといいます。これより夜叉と妖狐、協力出来ることを願っております。詳しくは後日、この国の王都フリスディカにてお話しましょう。後日来て頂ければ幸いです」
そう言うと2人は去って行った。
――良かったのかイーナよ
「ああするしかないだろう。今の状況では」
そう、確実に世界は動いていた。
「イーナ様……」
ルカも不安そうな様子で眺めている。俺はルカを抱きしめて言った。
「大丈夫、妖狐は俺が守るよ」
「おい、お前ら人間と戦争をするのか!?」
ヴァンパイアの男は俺に向かって言う。
「いや、今のところするつもりはない。でも、妖狐に被害があるとしたら……放ってはおけないな……」
「俺も連れて行ってくれないか!俺はルートヴィヒだ!ルートヴィヒ・ベッテンハイムだ、ヴァンパイアの王子だ」
ルートヴィヒと名乗る青年は必死に訴える。確かにこいつは強いし、悪い奴ではなさそうである。
「なら、一つ約束してくれないか?」
「なんだ?」
「俺は無駄に命が失われることは避けたいんだ。だから……関係ない人を襲うのは止めてくれ」
「この身に誓って約束する。復讐を手伝ってくれとは言わない。俺はヴァンパイアが巻き込まれた……世界の闇をこの手で払う必要がある」
世界の闇。
もはや妖狐も人ごとではなくなっていた。しかし、その闇を知ることは俺にとってもメリットはある。
さっきの反応を見るからにサクヤの病気もおそらく人工的なものだろう。
――だとしたらそやつらは放ってはおけぬな
「そうだな」
俺にも……守らなければいけないものは出来たし……
そう言って、ルカ、テオ、シータの方を見る。姿は見えないがサクヤもそうだ。
おそらく、立場は違うが、アマツとセンリもそうなのであろう。上に立つものとして。
こうして、俺達に新たな仲間が加わった。




