13話 ヴァンパイア
夜の漆黒に紛れるような黒のマントに身を包んだ、その男の目は赤く輝いていた。
その手には、大きな鎌のような武器が握られ、よく見ると、目から血の涙が流れている。
「ヴァンパイア……」
思わず呟く。
「人間……許さない……」
ヴァンパイアとおぼしき若い男は、こちらが状況を理解する前に襲ってきた。その目はこちらを完全に殺しに来ている目だった。
俺が持っていた龍神の剣を抜こうと背中に手を伸ばしたときには、もうすでにシータは剣を抜いており、俺の前に立っていた。
「俺がやる!まかせろ」
そう言うと、シータはヴァンパイアが振り下ろす鎌を自身の龍神の剣で防ぎ、ヴァンパイアの左脇腹辺りに向かって剣を振る。
ヴァンパイアもなかなか強者で、斬撃を鎌の柄で防ぐと少し分が悪いかと言った様子で距離を取る。
「人間のくせに強い…… お前らもやつらの仲間か……」
どうやら冷静ではないらしい。話を聞いてみたかったがそんな場合でもなさそうだ。
「シータ!なんとかそいつと話がしたい、殺さないでくれるか?」
俺がそう頼むと、シータは少し苦笑いしながら言った。
「なかなか、難しいかもな…… 奴は強いぞ」
「そうか、じゃあ俺も手伝うよ」
俺は持っていた剣を抜き、ヴァンパイアの方に向けた。
「おい、俺と話をする気はないか?」
「人間と話すことなどない!」
「人間と?なら、人間じゃなきゃいいんだな?」
少し屁理屈といえば屁理屈だったかも知れない。俺が剣に炎を宿すと、ヴァンパイアはその光景を見て、驚いた様子で叫んだ。
「なぜ、人間が魔法を使っているのだ!?」
「俺達は人間じゃないからな」
俺に限って言えば、嘘である。まあでも半分はホントだ。
「もう一度聞く。俺はお前と話がしたい?だめか?」
ヴァンパイアは少し迷った様子で、しばらく動かなかったが、構えていた武器を下ろし静かに口を開いた。
「いいだろう……」
そして、なんとかその場は収まったのだ。
「ここでは目立つ、こっちへ来てくれるか?」
ヴァンパイアの案内に従っていくと、道から少し外れた森の中に広場があった。中心にはたき火の跡のような、まだ燃え尽きていない木が数本集まっている場所があった。
「灯り付けて良いか?」
俺が聞くと、彼は好きにしろとだけ言った。
暗くて良く見えなかったが、火に照らされた、その男の目鼻立ちはくっきりと整っており、人間で言うと20代くらいの優しい男といった印象だった。
「さっき人間じゃ無いといったな?お前は一体何者だ?」
ヴァンパイアは尋ねてきた。
「妖狐だよ。狐だ。後は龍と猫」
俺の言葉に続いて、狐の姿になっていたルカは人間の姿へと変わった。
「なるほどな狐が化けていたのか」
「お前、ヴァンパイアだよな?灯りに当たっても大丈夫なのか?」
ふと、俺は疑問に思ってたことを口にした。ヴァンパイアと言えば光に弱いイメージがあったからだ。
「大丈夫だ、ただ力は出せなくなる」
ここで万が一、俺達に襲われたらどうするんだ……と思ったが口には出さなかった。実はこう見えて、なかなか純粋な青年なのかも知れない……
「それより、なんで人間を襲った?」
「俺達は元々、人間を襲ったことはなかった。そもそも、基本的にヴァンパイアは血は必要ない。たまに、森の動物を狩ることはあったが」
さらに彼は話を続ける。
「少し前のことだ。その日俺は動物を狩りに1人で山に行っていた。すると突然、城の方から激しい音が鳴り響いた。なんだと思って戻ってみると人間達が城に来ていたんだ。奴らは話すこともせずに、城にいた俺の仲間達を武器を使って殺していった。俺はなにもすることが出来ずに隠れていることしか出来なかった」
場が凍った。俺の脳裏には一つの可能性がよぎった。もしかしたら、アルラウネの里で出会ったあいつらなのかもしれないと。
「だから俺は人間に復讐する事を決めたんだ。あいつらをこの手で殺すために。それから、しばらくの間修行した。そのままでは絶対に勝てないと分かっていたから。そして俺は強くなった」
「それで人間を襲っていたのか?」
「そうだ、人間に復讐すると共に、俺の噂を流せば、また奴らも来るに違いない。そう思って俺は人間を襲うことにしたんだ」
「なんで、人間はお前らの所を襲ったんだ?ヴァンパイアは人間に関わらないで生きていたんだろ?」
俺がそう尋ねると彼は少し興奮した様子で叫んだ。
「知らん!だからこそ、俺は人間が許せなかった」
そういった彼は少し震えていた。
「何か、ヴァンパイアの城に人間が欲しがるものがあったのか……」
「ぴんぽ~~ん!」
突然、聞いたこともない女の声が聞こえた。そして、次の瞬間俺達の目の前に2人の人間が現れた。
1人は今の声の主だろう。透明感のある青い髪は、神社の縄のような髪留めでサイドテールに束ねられている。そして、六芒星に見える瞳は赤く輝き、明らかに人ではないことがわかった。
もう1人、その男は確かに前に見たことがあった。そう、アルラウネの里を襲っていた2人組の男のうちの1人、黒髪の男であった。




