125話 どっちがどっち!?
「良く来たな、リンドヴルム。そして客人よ」
私達の目の前にいた女性ファフニールは、見た目にはまだまだ若々しくとても衰弱しているようには見えないような凛とした振る舞いをしていた。深く吸い込まれてしまいそうな緑がかった長い髪を持つファフニールは、椅子に座りながら静かに言葉を続けた。
「椅子に座ったままの挨拶で大変申し訳ないが……、私が現族長のファフニールだ。以降よろしくお願いする」
「ファフニール、相変わらずだな。この者たちはイーナ、そしてその仲間のルカとナーシェだ」
リンドヴルムの紹介に合わせて、私達はファフニールに向けて会釈を行った。
「ほう……なるほど、お前が突然この山を離れたと聞いたが、まさかその者達が……」
「そうだ、ファフニール。お前も聞いているだろう。モンスター達が国を作ったと言う話を。その中心にいるのが、このイーナ達だ」
ファフニールは、興味深そうなまなざしを私達に向けると、ふむ……と小さな呟きを漏らし、静かに頷いた。
「それで、リンドヴルム、その者達をここに連れてきて、一体何を考えているのだ?」
「俺は俺なりに黒竜の未来の事を案じているんだ。端的に言う、お前の力を借りたい。同じ黒竜同士で争うのは間違っている。俺達は手を取り合って生きていくべきなんだ」
「その考えには、私も賛成だが、あいにく私はもう奴らを止めることは難しいぞ。それはお前がよく知っているだろう」
「イーナならお前を治療できるかもしれない。だからお前に会わせに来たんだ」
「一体、どんな風の吹き回しだ?お前は奴らのいざこざに、そんなに興味もなかっただろう、リンドブルム」
ファフニールの言葉に、リンドヴルムは少し気まずそうな表情を浮かべ、私の方をちらっと見た。
まあ、最初にあった頃のリンドヴルムは、ちょっと傲慢というか……変わった奴だった事は確かである。だけど、根が悪い奴じゃないことは私もよく知っている。
リンドヴルムはすぐに視線をファフニールへと戻し、言葉を続けた。
「イーナ達の国に行って、いろいろな体験をして、俺は世界の広さをまざまざと見せつけられた。いろんなモンスター達、そして人間が手を取り合って助け合っていく世界。それも悪くないと思っただけだ」
「やっぱり、お前は素直でバカだな。リンドヴルム」
静かに口を開いたファフニールは少し笑っていたような気がした。そして、そのままファフニールはさらに言葉を続けた。
「私もイーナ達に興味が湧いた。それに、私の病を治してくれるというのが本当なら、願ったり叶ったりだ。何卒よろしくお願い申し上げる」
ファフニールは私達に向けて、座ったまま深々と頭を下げた。
「ファフニールさん、早速ですけど、もし良ければこのままあなたの身体のこと調べさせてもらいたいです。私でわかるかどうかわからないですけど、全力は尽くします」
「ありがとう。少しだけ待って頂いてもよろしいか。すぐに支度だけさせて頂きたい」
すると、ファフニールの隣に突然に小さな女の子が2人現れた。双子のようなその女の子達は、ルカと同じくらいの年頃であろう。
「スウ、お客人達にもてなしの準備をお願いしたい」
「はいファフニール様」
スウと呼ばれる方であろう小さな女の子は、ちいさく礼をすると、私達の方に向かってきた。
「お客様、こちらへどうぞ。すぐにお茶のご用意を致します」
「ありがとう、スウさん」
「スウさんだなんて、私にはもったいないお言葉です。スウで良いです」
「スウ、よろしくね!私のこともルカって呼んで!」
ルカはスウに向けて笑顔を浮かべながらいった。ルカも年齢が近いスウと仲良くしたいのだろう。スウはそんなルカの様子に少し戸惑ったような様子で、何かを言いかけたが、結局何も言わずにそのまま歩みを進めていった。
スウに案内された先の部屋は、大きなテーブルが中心に配置してあり、椅子がいくつも並べられていた。席に座るようスウに促され、着席すると、すぐにスウは私達の元にお茶を持ってきた。
「では、お客様、しばらくここでお待ち下さい」
スウは静かに扉を閉め、部屋から出て行った。
それからしばらくしたのちに、扉をノックする音が響き渡った。扉が開くと、そこには小さな女の子が1人立っていた。
「イーナ様、ご主人様の準備が整いました。こちらへどうぞ」
よく見ると、先ほどのスウとはよく似ているが、少し雰囲気が異なっていた。おそらく、もう1人の女の子の方であろう。
「ありがとうすぐ行くよ!ちなみに、君はなんて言うの?」
そう言うと、女の子は少し驚いたような様子で、静かに口を開いた。
「ルウです」
「ルウ、よろしくね!じゃあ、いこうか!みんなちょっとだけ待っててね!」
私は、ルウに案内され、ファフニールの元へと向かった。




