122話 リンドヴルムのヒミツ
「ついたぞ、ここが俺達の里だ」
リンドヴルムと共に出発してから、すぐに私達はリンドヴルム達が暮らしているという集落へと着いた。
山間に集落が立ち並んでいる様子は、何処か龍神族の里を思い出すような光景で、私の中になんだか懐かしさがこみ上げてきた。だが、暮らしている人々の表情はどこか不安に怯えているように感じられた。
「リンドヴルム、この里に一体何が……」
「黒竜の一族がいくつかに分かれているのは知っているか?イーナ?」
リンドヴルム以外にもいくつかの名前はリオンの村で聞いていた。私は長老との会話を思い出しながら、その名前を口にした。
「炎のヨルムンガルド、水のガルグイユ、氷のファフニール……」
「そう、ヨルムンガルド、ガルグイユ、そしてファフニール…… 奴らとは常にパワーバランスを保ちながら、上手く共生をしてきていたのだ。だがしかし、今そのパワーバランスが崩れようとしている……」
「黒竜同士の争いが始まろうとしているって事……?」
リンドヴルムは、少し気まずそうな表情を浮かべながら、、私の方に頭を下げて言った。
「イーナ、申し訳ない!モンスター達の王となった、イーナを妻にすれば、他の黒竜達よりも、優位に立てる…… 俺は、お前達を利用しようとしたんだ……!」
さらに、リンドヴルムは言葉を続けた。
「だが、途中からみんな俺を仲間と呼んでくれた。街の人々は皆、見ず知らずの俺にも優しくしてくれた。皆に迷惑はかけられない。だからこそ、俺は1人で戻ることを決めたんだ」
「リンドヴルム……!あなたイーナ様を利用しようなんて……!」
「良いんだよルカ」
深々と頭を下げるリンドヴルムを見ていると、なんだかリンドヴルムが微笑ましくすら感じられた。彼は彼なりに、黒竜達のことを考えて、動いたのだろう。同じく、皆をまとめなければならない立場として、彼の気持ちもよくわかる。
「まあ、私達の国を気に入ってくれたのなら嬉しいよ!リンドヴルム!」
「イーナ、俺を怒ってはいないのか……?」
今にも泣き出しそうな表情で、リンドヴルムは私に言葉を返してきた。
「ほら!リンドヴルムは黒竜の中でも長の1人なんでしょ!そんな顔していたら、みんなまで不安になるよ!」
リンドヴルムが里の方を振り返ると、皆が私達の方を興味深げに見ていた。自分たちの長と、見知らぬ旅人とのやりとりを、皆が注目していたのだ。
「イーナ……」
「リンドヴルム!あんまりイーナ様を困らせると、ルカ本当に怒るからね!」
ルカは少しむくれながら、リンドヴルムにそう言った。だが、本心では、別に怒っていないだろう。他のみんなも、優しい笑みを浮かべながらリンドヴルムの方を見ていた。
「別に、1人で背負おうなんて、思わなくてもいいんだよ!私達はみんな仲間なんだから!イーナ様も!」
「本当に、ルカちゃんの言うとおりですよ!いっつも、みんなのためとか言って、無理しちゃうんですから!」
「まあまあ、そう言うな、イーナもリンドヴルムも、プレッシャーと戦っているんだ」
ルカとナーシェをなだめるように、シータが優しく諭すように言葉を発した。
「なんだか似たもの同士ですね!イーナちゃんとリンドヴルム君!」
ナーシェがそう言うと、さらに皆が笑顔に包まれた。少し耳に痛い話であった。私も反省しなくては……
気を取り直して、私はリンドヴルムに向かって、笑いながら言葉を告げた。
「まあ、そんなわけで、私達を頼ってよリンドヴルム!私達は仲間なんだからさ!」
その言葉に、リンドヴルムも笑顔で答えてくれたのである。
「ああ!」
………………………………………
私達は、リンドヴルムの屋敷へと来ていた。この集落の中でも一番高いところにある大きな家、そこがリンドヴルムの住まいであった。外見からでも大きな家であることは明白だったが、中に入ってみると、その質素な内装や、他に住んでいる者もいないためか、見た目以上に広くすら感じられた。
「それで、詳しく聞かせて欲しいんだけど、他の龍達はどこにいるの?」
早速私は、リンドヴルムに向かって本題を切り出した。今、それぞれの龍の一族がどんな状態になっているのかはよくわからないが、一触即発である事は、先ほどのリンドヴルムの話から伺えた。
「この大きな山、ル・マンデウスを囲うようにそれぞれ4つの龍の一族の集落がある。その中でも俺達は北側……他の奴らは、それぞれ山を挟んだ方向に集落を持っているというわけだ」
「この山って……ル・マンデウスって……どれだけ大きいのさ……」
思わず私は言葉が漏れてしまった。今だ山の中腹、それも北側。ル・マンデウスが一体どれほどの大きさを誇っているのか……そして、この山の反対側にどんな世界が広がっているのか……想像すら出来ない世界である。
「今のところ、別に大きな戦いが起こりそうと言うわけではない。ただ、このまま関係が悪化すれば、闘争が起きてもおかしくはないだろう……」
「平和的に解決できればベストってワケね~~」
ここで、アマツが私達の会話へと加わってきた。アマツは私の方にニヤニヤと笑みを浮かべながら、言葉を続けた。
「そういうのなら、イーナの得意分野じゃないの~~?」




