113話 世界の果てへようこそ
しばらくの間は、私達もこのキャンプを拠点に調査を行う事にした。この見知らぬ土地で、拠点を持たずに彷徨うというのは非常に危険である。幸いなことに、キャンプのみんなは私達を快く受け入れてくれたし、もう少し情報を集めたいという気持ちもあったのだ。
「リオンの村まではここからそう遠くないよ!また帰ってきたらゆっくり話でもしようね!」
そして今日は、早速リオンの村へと調査に行く予定である。ちょうど買い出しの用事があると言うことで、アレンも同行してくれるとのことだ。このキャンプでは定期的に、リオンの村に行っては、食べ物や必需品を購入してくるとのことである。
すっかり打ち解けたキャンプの仲間達が私達の出発を見送ってくれた。特に、アイルは私に心を許してくれたようで、姿が見えなくなるまでずっと手を振っていてくれていた。
「イーナ、お前すっかりあいつに懐かれたようだな」
「イーナはモテモテだねえ~~でもイーナもまんざらでもなさそうだったよ~~」
アマツが、私をからかうように笑った。その台詞にナーシェが焦った様子で、私の方を向いた。
「イーナちゃん……まさか、リンドヴルム君から浮気……?」
「違うって!」
「おい、イーナ!リンドヴルムっていうのは誰だ?お前の恋人か?」
アレンは、悪気のない様子で私に聞いてきた。リンドヴルムについて知らないのだから、無理もないが、私は全力で拒否をした。
「だから違うって!友達だよ!友達!」
「イーナはね~~リンドヴルムとの約束のために、はるばる南の大陸まで来たんだよ~~俺は、南に向けて旅に出る!って言った恋人を追ってね~~」
「ほう、そりゃ泣かせる話じゃないか……!」
「もう……好きにして……」
「ははっ!冗談だ冗談!気にするなよ兄弟!だが、俺は長いことこのキャンプにいるが、リンドヴルムなんて奴会ったことないぞ!本当にこっちに来たのか?」
「アレンさんもやっぱりわからないんですか?なかなか探すのも骨が折れそうな話ですね……」
ナーシェはため息をつきながら、少し気落ちした様子でアレンに対して答えた。ここの生活が長いアレンがわからないということは、おそらくキャンプにいる人達はなにもわからないだろう。あとはリオンの村での情報に期待するほかはない。
「そういえば、イーナちゃん!アイル君からは、リオンの村のこと何か聞いたんですか?」
ちょっと重くなった雰囲気を変えようと、ナーシェが私に元気よく聞いてきた。
「聞いてみたけど、自分で確かめろって、特に何も教えてはくれなかったよ」
「アイル君って、もちろん強そうではありますけど、なんだかアレンさん達とはまたちょっと雰囲気が違いますよね!」
「アイルも、お前達と同じように突然やってきたんだ。ほんの数ヶ月前のことだ」
アレンはゆっくりと、昔を懐かしむように言葉を繋いだ。
「ジョナサンっていう俺の親友みたいな奴がいたんだがな、そいつと一緒にいるときに、たまたま頭が4つあるケルベロスに襲われてな。俺もジョナサンも深手を負って、もう駄目かと思ったところで、あいつが俺達の前に現れたんだ。一刀でケルベロスを両断してな」
「頭が4つあるケルベロスですか……?普通3つのはずでは……?」
「いわゆる変異種ってやつさ。ただのケルベロスでも骨が折れる話だっていうのに、たかが頭が一つ増えただけで、おそろしい化け物のようになる。結局、ジョナサンはその傷が元で、助からなかった」
場が少し重い空気に包まれた。アレンは1人、笑いながら話を続けた。
「そんなしらけるなよ!まあそれがここで生きると言うことなんだ。弱いものから死んでいく。それがこのモンスター達の楽園の唯一のルールだ。お前達も覚えておいた方が良いぞ!」
アレンの言葉に、ルカは、あの出来事を思い出したようで暗い表情で何も言わずに歩いていた。
「ルカ……」
――そちも、ルカの為に必要だと思って、経験させたのじゃろ?大丈夫じゃ、ルカならすぐに立ち直る。そちが思っているよりもずっとルカは成長しているぞ!
ルカの様子に少し心配になっていると、サクヤが私を励ましてくれた。子供を持った親は、こんな気持ちになるんだろうか?きっと、私に出来る事はルカを信じて、見守ることしか出来ないんだろう。それはわかっていたが、私がやろうと言いだしたことであることは、間違いなかったため、どうしても責任を感じざるを得なかった。
それからまもなくして、草原の先に、煙が上がっているのが見えた。すぐに遠くに見えていた村の風景が大きくなっていった。
「ついたぞ、ここがリオンの村だ!」
村は小さいながらも活気で溢れていた。アレンの姿を見つけた子供達が、アレンの元へと一斉に駆け寄ってきた。
「アレンおじちゃんだ!」
「アレンおじさん!遊ぼう!」
そんな子供達の笑顔を見て、アレンは子供を見守る父親のように優しい表情で微笑んだ。
「お前達、元気だったか!今日は買い出しに来たんだ!あと、新しい仲間も一緒に来た!イーナと……」
「イーナ?」
「変な名前ーー」
「なんかよわそーー」
子供達はなんだかんだ言って、私達に興味を示してくれたようだ。あんまりいい気はしないが…… まあ子供相手にそんなムキになっても仕方無い。
そして、やはり子供に人気なのは優しそうな人と強そうな人らしい。ナーシェとシータはすっかり子供達と打ち解けているようだ。
「イーナ!まずは一緒に長老の所へ挨拶に行こうか!買い物はその後だ」
「えー!アレンおじさん今日は遊ばないの!」
寂しがる子供達の様子を見かねて、ナーシェとシータがアレンと子供達の方に向けて、一つの提案をした。
………………………………………
「わざわざ付き合ってもらってありがとう、アレンさん」
私は、アレンとアマツ、そしてルカと一緒に長老の家に向かって歩いていた。今日一日アレンの代わりに、ナーシェとシータ、そしてルートとテオが子供達と遊んでくれるとのことだ。
「気にするな!どちらにしても、毎回、長老の所には挨拶に行っているしな。それに、イーナがここに来た目的は、黒竜について調べることじゃないか。ゆっくり長老に話をきくといいさ」
村の一番奥、この村では珍しい、大きな屋敷。アレンはその扉を叩いて、家の中へと入っていた。私もアレンの後についていった。そして、私達の前に1人の老人が姿を現した。
「良く来たな、アレン。そちらは初めて見る顔じゃな……」




