106話 ルーミス魔法武具店
「うーん良い天気」
酒場のマスターから紹介してもらった宿屋で一泊した私達は、マルセーヌの街を探索していた。マスターによれば、マルセーヌの街から、南にはもう大きな街はないという。この街でしっかりと準備して行くことをおすすめされたのだ。
「見て!イーナ様!魔鉱石が売ってるよ!」
ルカが指を差した先には確かに魔鉱石が所狭しと並んでいた。小さいサイズではあったが、確かに秘めた魔力を感じられた。
「ルーミス魔法武具店……?」
看板には、そんな風に書いてあった。魔法武具?はじめてきいたぞ……私達は早速、その店へと足を運んだ。
「いらっしゃい……魔法武具をお探しかい?」
ドアを開くと、鈴の音の共に、奥からおばあちゃんが顔を出した。
「こんにちは!ちょっとお聞きしたいんですけど、魔法武具ってなんなんですか?」
「珍しいこともあるもんだね……お前さん方魔法武具をしらんのかい? 最近この地方での必需品とまでなっているというのに……」
「私達、シャウン地方から来たんです!」
ナーシェがフォローするように、店主に向かって言った。店主のおばあちゃんはやれやれといった表情で、説明をはじめてくれた。
「そーかい、ずいぶん遠いところからご苦労様なことだねえ。魔鉱石を利用し、魔力を持たない人間でも魔法を使える技術。それが魔法武具だ。まだ製品としては、この地方しか流通していないから、知らないのも無理はないか……」
「魔法を使えるんですか?私達にも?」
ナーシェが、店主の話に食いつく。ナーシェは私達とは違って、人間である。魔法が使えないというのも至極当然のことではあるが、もしかしたら、何か劣等感のようなものも持っていたのかもしれない。
「例えば、これ。火属性の魔法武具だと、火の魔法を使いこなせるさね!通常の魔法武具は火と水、氷と雷と風の5種類があるよ!」
「これを使えば、私もイーナちゃんみたいに魔法を使いこなせるかもしれないですね!」
ナーシェは目を輝かせながら、こちらの方を見ていた。すると、ナーシェの話に興味を持ったのか、店主はこちらの方をじっと眺め、口を開いたのだ。
「お前さん……その2本の剣…… ずいぶんと強力な魔鉱石で出来ているようだね……相当な業物だね、魔法使いかい?」
特に嘘もつく必要も無いだろう。そういうことで、私は首を縦に振って返した。店主は私のほうを見て頷いた。
「なるほど……相当な魔法使いと見た。あんた、その若さでただもんじゃないね…… わざわざ遠いシャウンの方から、どうしてここに来たんだい?」
「私達、南の方へ向かおうと思っていたんです」
私の言葉に、店主が一瞬表情を強張らせた。そして、先ほどまで同じように、落ち着いた様子で続けた。
「お前さん達が何を目的に南に行こうというのか、そこまで詮索するつもりはないが、これはあくまでかりそめの道具だ。そこまで過信はしちゃ駄目だよ」
「それでも、少しでもみんなの役に立ちたいんです」
ナーシェは真面目な表情で、店主の方に向けて言った。店主のおばあちゃんはふっと笑うと、ナーシェの方に優しい笑顔を向けた。
「お前さんも、苦労してるんだね……わかった。どの魔法武具がいいんだ?」
「イーナちゃんは確か、火と氷を使えるんですよね……なら、水か雷か……」
ナーシェはぶつぶつと呟きながら、商品をじっくりと選んでいた。ルカやルートも加わって、みんなで話が盛り上がっているようだ。すると、店主は私の元に近づいてきて、耳元でこそっと呟いたのだ。
「あんた、あの子を絶対守ってやりなよ。南の強力なモンスター達相手となると、流石に魔法武具とは言えど、通用する保証はどこにもない。あんた達の役に立ちたいというあの子の思いは本気だ。でも最後はあんた達がなんとかするしかないよ」
店主は私とシータ、そしてアマツの方を見ると笑みを浮かべて、商品を選んでいるナーシェ達の方へと戻っていった。
それにしても、魔法武具か……どんどん技術というのは進歩していくものなんだな……やはり、人間は恐ろしい、例え力で敵わなくとも、知力や技術でどんどんとカバーしていく。
「もしかしたら、そこらで魔法が飛び交うような時代が近づいているのかもね」
「イーナちゃん!私これにします!水です!やっぱり水が一番美しいかなと思って!」
ナーシェは子供のように無邪気に笑っていた。すごく楽しそうで、見ているとこちらまで笑顔になる。
「俺は風にする……シナツの戦い方を近くで見せてもらっていたからな。これが一番使いやすそうだ」
ルートまでもが、魔法武具にすっかり夢中になっていた。確かにルートも吸血鬼であるとはいえ、こういったわかりやすい魔法といったものは使えない。今まで見たこと無いようなわくわくした表情を浮かべ、ルートも子供のようにはしゃいでいた。
「じゃあ私も~~」
そう言うと、アマツも魔法武具のコーナーへと進んでいった。おもちゃを目の前にした子供のように、みながはしゃいでいる。
「ルカは良いの?」
ナーシェやルートと一緒に品物を見ていたルカは、私の方に笑顔を向けた。
「うん!ルカは魔法使えるしね!あれから鍛えたんだよ!ルカもナーシェと一緒にイーナ様のお役に立てるように頑張るね!」
「そうだね!頼りにしてるよ!ルカ!」
そう言いながら、ルカの頭を撫でると、ルカは嬉しそうにしていた。結局、ナーシェが水、ルートが風、そしてアマツは雷の魔法武具に決めたようだ。
「おばあちゃん、決めました!私これにします!お代はいくらになりますか?」
ナーシェが店主に問いかけると、店主は優しい表情を浮かべて答えた。
「魔法武具一個につき金貨1000枚だ。払えるかい?」
「金貨1000枚!?」
ナーシェが驚いたような表情で声を上げた。やはり最新の技術だけあって相当に高い。それこそ、昔王様と競馬で金貨500枚を賭けて勝負をしたこともあったが、今思うと、相当な無茶をしたものである。すると、おばあちゃんは、ナーシェがそんな反応をする事などお見通しかのように笑いながら言った。
「そう言うと思ったわ。そうさな、もしお前さん方が、この近くに出て悪さをしているモンスター退治をしてくれるというのならまけてやってもいい。どうする?」
よくありそうな、話の流れである。まあ、新しい武具の性能を試すのにもちょうど良さそうな機会だ。その提案に乗るのも悪くない。
「わかった、私が立て替えておくよ。その代わり、そのモンスター倒してきたら差分は返金してくれるって事でいい?」
「もちろんだとも、言ったことは守るさ」




