103話 ビーチサイド
「イーナ様!見て見て!海!」
一面に緑が広がるレェーヴ原野。そして、レェーヴ原野を超えた先には、アマツの言ったとおりに海が広がっていた。
「休憩もかねて、ちょっと降りてみる?天気も良いし!」
「いいの!?イーナ様!ルカ海行ってみたい!」
私達は、白く輝くような砂浜へと降り立った。天気は快晴、そして静かに音を奏でる波、まるでリゾートに来たような気分になる。
「イーナちゃん遊びましょう!ビーチです!」
ナーシェも興奮した様子で、はしゃいでいた。いつの間にか、着替えており、その豊満なボディがより露わになっていた。
「ナーシェ……いつの間にというか……着替え持ってきたの?」
「そうです!やっぱり南に行くと言うことで!いつでも海に行けるように、仕込んでおいたのです!」
ナーシェのいつもより攻めたスタイルに、思わず、私も見とれてしまいそうになった。ルートは大丈夫なんだろうか……
ちらっとルートの方を見ると、全く興味が無いという様子を、本人はなんとか見せようとしていたが、顔を赤めて、ナーシェの方をちらりちらりと見ているのはバレバレであった。健全な男の子たるもの、仕方無いよなうん。
それにしても…… ナーシェは滅茶苦茶スタイルがいいな…… なんだよ、あの胸……
――悪かったな
――ち、違うよ!べつにサクヤ……
――冗談じゃ。たまにはこんな息抜きもいいもんじゃな
そう、息抜きは重要である。先日までやることに追われていて、リラックスする時間なんて全然無かったし、こんな綺麗な海を目前に楽しまないというのも、もったいない話である。
波打ち際で砂に何かを描きながらキャッキャとはしゃいでいるルカとテオ。なんて素晴らしい眺めなのだろう。青い海、青い空、そして少女と猫。ああ……目の保養である。
「イーナ様!何を見てるの!」
私の視線に気付いたルカが、こちらに声をかけてきた。
「平和だなーって思って!」
「イーナ様もこっちに来て!一緒に遊ぼうよ!」
………………………………………
ルカやテオと少し一緒に遊び、私は再び、ビーチの端に広がる、木々が作り出してくれた日陰へと戻った。そして、風の音と波の音を感じながらぼーっとはしゃいでいるみんなを眺めていた。
青々と広がる海。この海を越えたら、遂に南の大陸である。どんな世界が広がっているのか、想像も出来ない。
「何してるの~~イーナ~~?」
アマツが、私の横に来てちょこんと座り込んだ。私はアマツに言葉を返した。
「海を越えたら、どんな世界なのかなって、ちょっと考えたんだ」
「それはもう、おっそろしいよ~~!化け物がそこらへんを闊歩して……」
「アマツ行ったことないんじゃなかったっけ?」
「冗談だよ~~」
アマツでさえ、知らないような世界。もちろん不安もないわけではないが、私は何より興奮に包まれていた。
「じゃあ、そろそろ行こうか!」
あんまり、ここで長居をするというわけにも行かない。夜になる前に、街を探す必要がある。
「そうだね~~」
私が立ち上がるのに合わせて、アマツも立ち上がって、皆の方へと歩き出した。
「アマツ、あのさ……」
私の声に、先に歩みを進めていたアマツが振り返った。
「ミドウさんのこと、申し訳なかった。ごめん」
すると、アマツは初めて見たような優しい笑顔を浮かべながら、こちらに言葉を返してきた。
「なんでイーナが謝るのさ。もういいんだよ~~」
ミドウを助けられなかったことに、私は未だに罪悪感を感じていた。特にアマツには、大切な家族を失わせることになってしまい、なんと言えば良いのかわからなかったのだ。そして、2人の間に沈黙が流れた。すると、アマツはお茶目な笑顔を私の方に向けながら、今まで見たことのないような、少し甘えた様子で、私に向けて言ったのだ。
「もし、今度…… 私がピンチになったときには、イーナ助けてくれる?」
「任せて。もう誰も、悲しませない」
私はアマツの方に向けて、力強く答えた。その言葉に、アマツはフッと笑うと、私に背を向けて、波打ち際の方向へと、歩みを進めていったのである。




