102話 南の大陸へ
「アマツ、リンドヴルムの向かった先ってわかるの?」
「詳しい場所まではわからないけど、ここから遙か南、人間が足を踏み入れることない領域に、黒竜のすみかはあるみたいだよ~~私も流石に言ったことがないから、それ以上はわからない~~」
未だ誰も踏み入れたことのない世界。どんな冒険が待っているのか、ついわくわくしてしまう。
「モンスター達の世界かあ……」
すると、ナーシェがついていきたいという顔で、まじまじとこちらを見ていた。
「未だ知らない新しいモンスター達と出会える…… イーナちゃん、是非とも、私も一緒に連れて行ってください!」
「ナーシェ、確実に危険を伴うことになるよ?」
「それでも!私は知りたいからついていきたい!」
「イーナ様!私も!イーナ様と一緒にもっと世界を知りたい!」
ルカもナーシェに続く。
テオとシータ、そしてルートも一緒に行きたいと言った様子で、こちらを眺めている。私が最も信頼している仲間達、みんなの力があれば、きっとどんな困難が立ちはだかっても乗り越えていけるだろう。
「わかった、みんな、よろしくお願いします!特にシータ!背中に乗せてもらうことになるけど、頼むね!」
「イーナ~~!まずはこのまま南に向かって、レェーヴ原野、そして海を越えたら、南の大陸だよ~~! 確か、南の大陸の海沿いには街があったとは思うから、そこで情報を集めるのが良いかもね~~」
アマツの言葉だと、南の大陸にも人間の街はあるようだ。だが、誰もいった事はないようだし、平和で友好的な街であるかどうかも不明ではある。それでもいけば、きっと何かわかるはず。
今回の旅も、おそらく長い旅になるだろう。私は気合いを入れるためにも、アマツが用意してくれた巫女のような衣装に袖を通した。そして、私の相棒でもある、龍神の剣を腰へとセットした。今回から、新しくなったのは服だけではない。相棒も1本増えたのである。
リンドヴルムが去る数日前、私達の元に、1人の訪問者がやってきた。ラスラディアである。私達の国、レェーヴ連合建国を祝うために、はるばる龍神族の里から訪れてくれたのだ。
「イーナさん!お久しぶりです!そして……」
ラスラディアの視線は、久しぶりに再会した父親のシータへと向けられていた。あれから、2人は会っていなかったのだ。ラスラディアもシータもお互いに、何を話すべきか、言葉が出てこないようで、沈黙が続いていた。
「父上、お元気でしたか……?」
「しばらく見ないうちに立派になったな、ラスラディアよ」
会話を交わす父子の目には涙が浮かんでいた。久しぶりに会った2人は、積もる話もあったようで、朝までずっと話を続けていた。そして、翌日、ラスラディアが、帰る際、私の元に、1本の剣を届けてくれたのだ。
「イーナさん、この剣は、先日私達の里で取れた龍鉱石から作ったものです。レェーヴ連合の建国を祝って作りました。是非とも私達からの贈り物として、受け取って頂きたい!」
ラスラディアが持ってきてくれた剣を手に取ると、私の身体の中で、力がどんどん高まっていくのがわかった。おそらく、この剣の原料となった龍鉱石も、龍神の剣と同じくらいには上質なものであったのだろう。
「ありがとう!ラスラディア!お礼はなにも用意して無くて申し訳ないけど、良かったらゆっくりしていって!いろんな地方の食べ物もあるし!」
「ありがとうございます!イーナさん。ですが、私もあまり長く里を離れるわけには行きません。また日程を調整して、今度はゆっくりと訪問させて頂くので、是非ともその時に!」
ラスラディアが、私に贈ってくれた剣。新たな相棒である、その剣も腰にセットした。ミズチに鍛えてこそもらったものの、九尾の身体、やはり力という面ではどうしても、他のモンスター達には劣ってしまう。そのために神通力の炎や氷の力でカバーしていたが、新たに剣が1本増えたことで、2刀で戦いに挑めるというのは大きいだろう。
「さあ、行こうか」
皆が準備を済ませ、広場へと集合した。すでにシータはドラゴンの姿になって、いつでも出発できると言った様子で、私達の到着を待っていてくれた。
「イーナ、気をつけろよ」
「今回ばかりは助けにはいけないぞ」
ミズチとシナツは、心配するかのように私の元に寄ってきて言葉をかけてくれた。
「大丈夫だよ。それよりも、もしかしたらリンドヴルムのように、この国に訪問者が来るかもしれない。その時はみんなのこと頼んだよ!」
どちらにしても、私達の国の事はもう、他の使徒達にも知られているだろう。ならば、向こうから来たとしても何ら不思議ではない。
「任せておけ」
ミズチとシナツは、力強く私達を送り出してくれた。地面を離れると、シータの背中から見えるリラの街が、だんだんと小さくなっていった。そして、眼下にはどこまでも広がるかのような森林が続いていた。
「イーナ様!すごいね!ルカこっちの方向行ったことないよ!」
ルカは狐の姿で私の鞄からテオと共に首を出していた。少しでもシータの負担を減らすために、そうしてくれたのだ。
「そうだね!しばらくは森が続きそうだね!シータ大丈夫?重くない?」
「大丈夫だ!いや、でも前より少し重くなった気がするな!ナーシェ食べ過ぎなんじゃないか?」
「もう、シータさん!女の子の体重の話題はタブーですよ!」
「ははっ!すまんすまん!全然問題ない」
久しぶりのみんなでのやりとりに、私も少し嬉しく、そして懐かしい感覚を覚えていた。最初に人間界に行ったときも、こんな感じでシータの背中に乗って、わくわくしながら冒険が始まった。
「まずは、南の大陸だ!新しい冒険のはじまりだよ!」




