101話 Oath with the Black Dragon
第3部完結です!
シャウン王国の騒動は、レェーヴ連合の助力もあり、二国間での同盟の締結を持って、終了しようとしていた。だが、私にはもう一つやり残したことがある。しばらく騒動でうやむやになってしまっていたが、リンドヴルムに未だ返事を返していなかったのである。
「ねえリンドヴルム、こないだの話なんだけど……」
私がリンドヴルムに声をかけると、リンドヴルムはきょとんとした顔で、こちらの言葉に反応をした。
「こないだの話とは……?なんだイーナ?飯の話か?」
「違うよ!……結婚がどうとかこうとか……の件」
なんだか改めて言葉に出すのに気恥ずかしさもあったが、私はなんとか用件をリンドヴルムに伝えた。するとリンドヴルムは、笑いながらこちらに言葉を返してくれた。
「ああ、あのことなら、そんなに急いで結論を出さなくても良いぞ!それに、今はお前も忙しいだろう!」
私も正直言うと、断るつもりであった。誰が好きとか、そういった話ではなくて、今はまだやるべき事が一杯残っている。
「ごめんね、せっかくわざわざこの国まで来てくれたのに。でもやらなきゃいけないことがまだ沢山あるから、今はそういうのは考えられないんだ」
「それでいい。また、いずれ落ち着いたら、考えれば良いさ。それに俺にもまだやらなきゃいけないことがあるしな」
リンドヴルムのやるべき事…… 少し引っかかったが、私はさらに深く聞くことはしなかった。。もし言うべき必要があると本人が判断したなら言ってくれるに違いない。そう自分に言い聞かせながら、これ以上詮索することをやめたのだ。
「イーナ、俺は一度、この国を離れようと思う。そして、やらなきゃいけないこと、全て片付いたら、また戻ってくる。その時はこの国の正式な一員として、また迎え入れてくれるか?」
「もちろん。リンドヴルムも、もう仲間だからね。どこにいても関係ないよ」
その言葉を聞いたリンドヴルムは、小さな声で、仲間か……と、呟いた。何か、思うところがあるのだろうか。思えば、リンドヴルムの事を私は全然知らなかった。彼がどんなところで生まれ、どんなところで育ち、何を思ってここに来たのか。まあ本人は私と結婚するためと言っているが、それだけのために来たわけではないだろう。
「あのさ、リンドヴルム。もし……もし、リンドヴルムの言うやらなきゃいけないことが、1人じゃ難しいのなら、私達も力を貸すよ!」
「そうだな。気持ちだけ受け取っておくぞ!これは俺の問題だからな。どっしり座って待っていてくれよ。お前はこの国の代表なのだからな!」
そう言うと、リンドヴルムはドラゴンの姿へと戻り、空高くへと飛び立っていった。南の方の空にリンドヴルムの姿はだんだんと小さく消えていった。飛び立ったリンドヴルムの姿を見て、仲間達も、私の元へとやってきた。
「イーナちゃん!リンドヴルムさんですよね……何処かへ行ってしまったのですか?」
ナーシェが私の方へと問いかけてきた。
「やるべき事があるんだって。終わったらまた帰ってくるって言ってたよ」
私は、リンドヴルムが飛び立っていった方向の空を眺めながら、皆に、リンドヴルムが去ったことを伝えた。
「そうですか、大丈夫ですよ。帰ってくるって言ってたのなら!」
ナーシェが、私を励ますかのように、声をかけてきた。だが私は、リンドヴルムが去る前に、少し真剣な表情を浮かべていたのが、どうにも気にかかっていた。
「もしかしたら、もう戻ってこないかもしれない……とか思ってない~~?」
「そんなことはないけど……なんかちょっと不安な気持ちになっただけだよ!」
「それは、恋だね~~」
アマツは、いたずらな笑顔を浮かべながら、私を弄ってきた。少し笑いが飛び交った後、再び沈黙が場を支配した。その沈黙を破ったのは、またもアマツであった。
「気になるなら、ついて行ってみれば~~?調査だよ調査!」
「気にはなるけど、この国を離れるわけにはいかないよ!」
すると、アマツは淡々とした様子で、さらに話を続けた。
「もしかしたら、私達の国の今後にも関わってくるかもしれない話……っていっても~~?」
アマツは怪しげに笑みを浮かべたまま、私の方をじっと見ていた。
「アマツ、一体何を知っているの?この国に関わるかもしれないって……」
「アレナ聖教国で聞いた10使徒って覚えてるよね~~?」
私は、アレナ聖教国をはじめて訪れたときに、おじさんから教わった神話を思い出した。
『世界の始まりの日の話だ。
唯一神アレナは、10人の使徒と共に、方舟でやってきた。
そして、唯一神アレナは、世界を創造した。
そして、創造した世界を10人の使徒に管理させた。
黒竜は大地を造り、鯨王は海を作った。
鳳凰は空を護り、霊亀は陸を護った。
麒麟は雷を生み出し、妖狐は炎を生み出した。
大神は風を吹かせ、狒々は緑を芽吹かせた。
夜叉は闇を生み出し、大蛇は死を司った。
10人の使徒はアレナの居ぬ世界を主の帰りの時まで守り続けている』
「10使徒がどうかしたの?」
アマツの話では、10使徒の中でも、特に黒竜や鯨王、鳳凰、そして霊亀といった奴らは、私達と違って、人間のそばで暮らすといった事を選択しなかった。だからこそ、この地方でも、皆にその存在を知られていなかったのだ。
人々は、身近に存在する私達のような強力な力を持つモンスターに、畏怖の念を込めて、神とあがめ奉り始めた。それ以外の使徒達は、ここまでひっそりと、人間界に興味すらもつことなく、暮らしてきたのだ。
「奴らは人間になんて興味が無い。明らかに格下だとわかっているからね~~。だけど、この国は違うんだよ~~史上初のモンスター達の国だし、何より10使徒の集まっている国でもある」
「それが、何か関係あるの?」
「元々、使徒はお互い仲が良いわけではなかったんだ~~私達みたいな関係は、他の奴らはほとんど無くて~~。特に黒竜や鯨王、鳳凰や霊亀といったバカみたいな力を持っている奴らは、お互いに争うことも沢山あったらしいよ~~」
「じゃあ、リンドヴルムがここに来たのも、自分たちの勢力に引き入れるため……?」
私は、一つの可能性へと行き着いた。リンドヴルムが何故急に来たのか。そして、なぜ結婚しようといってきたのか。そう考えれば合点もいく。
「わからないけど、それもあるかもね~~」
勢力を増やしたいと思うとき、それは大抵碌でもないことが起こる前である。
「使徒同士の戦い、それも私達なんてもんじゃない力を持った奴ら同士の衝突なんて事になったら~~この地方も無事では済まないかもしれないしね~~」
「つまり、どちらにしても調査を行う必要があるってことね」
そう言うと、アマツは明るく笑いながら、ご名答~~と、言葉を返してきた。そして、さらに言葉を続けた。
「そう、そして、今度はいわば強力なモンスター達の巣窟に自ら足を踏み入れることになる。生半可な力じゃとうてい太刀打ちできないよ~~。だからこそ、イーナがいった方がいいと思ったんだ~~」
明らかに危険な仕事である事は、行く前からわかっている。確かに、他のものを向かわせるよりは、私やアマツでいってしまった方が安心だし、話も早いだろう。
「この国の事は、俺とシナツに任せてくれてかまわない」
一部始終を聞いていたミズチは、ぼそっとその言葉だけを私へと残した。
「ありがとう、わかった。アマツ、すぐに出発する準備はできる?」
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惟名水月




