99話 アイドルじゃないんですけど
『シャウンの危機救う!モンスター達の力!』
教官から渡された新聞には大きく見出しが書いてあり、私達のイラストも一緒に載せられていた。イラストは思っていたよりも精密に描かれており、私自身も似ていると思うほどには完成度が高かった。
『レェーヴ連合を束ねるのは、九尾であるイーナである。彼女は、モンスター達の王となり得る力、そして人々を虜にする美貌を併せ持っており……』
「なんか、この記事おかしくない?」
だが、私の疑問など露知らずと言った様子で、ナーシェとルカはさらに記事を読み進めていった。
『レェーヴ連合は、名前の通り多種族のモンスター達による国家である。イーナをはじめとする妖狐の一族、そして四神の一族として知られている夜叉、大神、大蛇などを中心に建国された』
「すごいですね!この記事…… どうやって取材したのでしょうか……?」
私の思い出した限りで、取材などを受けた記憶というのは一度も無かった。たしかに、記事の中身はレェーヴ連合の内情を知っているものでないと書けないような内容である。私達はさらに、記事を読み進めていった。
『幹部の1人である、夜叉族のアマツはこう語っている。イーナは人間とモンスターが共に手を取り合っていける世界を作る為に、この国を作りました。大変優しい心を持った方ですが、怒らせると怖い一面も併せ持っています……』
……犯人がわかった。同じく、全てを察したナーシェが私の方に向かって小さく呟いた。
「アマツちゃんですね……」
「ぴんぽ~~ん!」
その声と共に、記事の取材を受けたであろうアマツが、現れたのである。
「やっぱり……」
「まあ~~広報活動は重要だからね~~お陰でファンも増えたし、良いことづくめだよ~~」
アマツは飄々とした様子で、そう言った後に、さらに言葉を続けた。
「それより、イーナお疲れ様~~!この騒動もひとまずは一件落着だね~~」
思えば、アマツにはいつも心配をかけているし、いざというときには助けてもらってばかりである。申し訳なさで一杯になった。そんな風に思っている様子がアマツにも伝わったのであろう。アマツは気にしないでと言うと、笑顔でさらに続けた。
「そういえば、ノア国王から伝言があって、目覚めたら是非王宮に来て欲しいそうだよ~~」
………………………………………
「イーナさん!目覚められたのですね!良かった!」
王宮に着いた私達をノアは笑顔で迎えてくれた。生き残った、ノアの家臣達は、後片付けにまだ忙しそうにしていたが、大分王宮の中も片付いてきたようで、早くも元の平和なシャウン王国を取り戻しつつあった。
「ご心配をおかけしました。突然お邪魔しちゃって、迷惑じゃありませんでしたか?」
アマツと合流したあと、私達はそのまま王宮へと向かった。どちらにしても、ノアには挨拶をしようと思っていたし、色々話したいこともあった。向こうから招待されたのはむしろ都合が良かったのだ。
「迷惑なんて、そんな! あなた方には大変なご恩があります。いつでも来て頂いて大丈夫です!」
そして、挨拶もいくつか済ませ、私達は重要な話へと議題を移したのだ。今後のこの国についてである。
シャウン王国はレェーヴ連合にとっては非常に重要な立ち位置に値する。この国無くしては、私達の国も、この世界で上手く立ち回っていくことは難しい。ノアだけでなく、私達にとっても、シャウン王国の復興というのは重要な話である。
「今回の戦いで、シャウン王国は大きな痛手を負ったとは思います。特に、今混乱が起こっている世界情勢において、軍事力というのは国を守る上で一番重要になると思いますが、今後の見通しは立っているのでしょうか?」
正直、今原状復帰すらままならないのは、慌ただしく働く家臣達の様子を見ているだけでもわかった。だが、私はあえて口にしてノアに確認を行ったのだ。この国と、私達の国の未来のために。
思っていたとおり、ノアは困ったような様子で、私に言葉を返してきた。
「イーナさん達も知っての通り、今回のクーデターは軍部を中心に起こったものです。正直、この国の軍事力は半分以下に落ち込んだと言っても良いでしょう。今他国から攻められるようなことがあれば、それこそ、この国はおしまいです」
ノアは少しの沈黙の後に、さらに話を続けた。
「もちろん打てる手は全て打つつもりです。ですが、私達の力だけでは、この状況では限界があります……」
そして、ノアは驚くべき提案を私にしてきたのだ。
「私達の国をあなた方の国に加えて頂くというのは難しいでしょうか!!」
あなた方の国に加えて……
つまり、私達の国の一部になると言うことだよね……?
流石にアマツやナーシェ、ルカも驚いたようで、私の方にどうするのかいった視線を送ってきた。私も最初聞いたときこそ、混乱したが、一旦頭を落ち着けて考えることにした。
正直思ってもみなかった提案であった。そもそも私達の国は、シャウン王国や、タルキス王国と言った国のお陰で出来た国である。いわば、シャウンは私達にとって親の様な存在と言っても良いだろう。
果たして、まだ歴史もないような、レェーヴ連合がこんな大国を取り入れて上手く行くのだろうか。不安でいっぱいではある。だが、ある意味ではモンスターと人間が共生できる未来と言った観点では、念願が叶うことにも繋がる。
どうするのが正解なのだろうか。
そして、数十分ほどであろうか、考えた後に、私は一つの結論へとたどり着いたのである。




