98話 フリスディカの日常
あれから何日経ったのだろうか。ベッドの上で目が覚めると、ナーシェとルカがすぐに近寄ってきた。
「イーナ様!目が覚めた?」
「もう、イーナちゃんはいつも無理しすぎなんです!いつか本当に死んじゃいますよ!」
「大丈夫だよ。ありがとう」
私は2人に頭を下げた。だが、確かに、毎度毎度戦いの旅に満身創痍になって意識を失うのも、情けない話である。
「そういえば、みんなは!?それにシャウンはどうなったの!」
「どうなるもなにも、まだあれから1日しか経ってませんよ!」
ナーシェの言葉に、窓から外を眺めると、依然と変わらないフリスディカの街並みが広がっていた。再び平和に包まれ、活気の溢れる街並みを見ていると、どことなく安心する感覚を得られた。
「そうかあ……もう大分元気になったし、ちょっと散歩でもしない?」
「イーナ様大丈夫?無理はしないでね」
私の提案に、ルカは心配の言葉をかけてきた。
「大丈夫大丈夫。ちょっと外の空気を吸いたくなったんだ」
「久しぶりのフリスディカですしね!ゆっくり散歩するのも良いですね!」
外に出て大きく息を吸った。懐かしい匂いがする。そして、街の人々は、私の姿を見ると、すぐにこちらに近づいてきて、声をかけてくれた。
「イーナさん!この度は本当にありがとうございます!クーデターが起きたと知った際にはどうなるかと、怖くて怖くて……!」
「イーナさん達のお陰で、ノア様も生きていたし、またこの国も復興していけます!」
すっかり私達の噂は街に広まっていたようであった。聞けば、あの後、すぐにノアが、新国王として民の前に立ち、皆に言葉を贈ったそうだ。
民の中には、最初こそ、ルイスの思考に賛同した者もいたらしい。だが、その乱暴な手段に、次第に国民は恐怖の底へと落とされていった。軍による監視に怯える日々から開放された喜びは、フリスディカの街全体を包み込んでいた。
「だけど、軍部による反乱だったら、この国の軍隊は一体どうなるんだろう?」
私は、ここで、一つの疑問が浮かんだ。シャウン王国は大国とは言え、いまや連邦からも脱退してしまった。と言うよりも、連邦自体がもはや体をなしていないといった方が正確なのかもしれないが。まあどちらにしても、十分な戦力を持っていないと見なされれば、周辺国からの侵攻があってもおかしくはないはずだ。
「確かに……どうするんでしょうかね?」
ナーシェが私の言葉に同意して、首をかしげる。
どちらにしても、後でノアには挨拶に行くつもりではあったし、その時にこそっと聞いてみよう。もし、軍事力を持たないなら、持たないで私にも考えがある。
そして、私達は、ギルドの方へと、歩みを進めた。ギルドのメンバー達とも、しばらく会っていなかったし、せっかくフリスディカまで来たのだから、挨拶の一つでもしようと思ったのだ。
「おお、イーナ!ナーシェ!久しぶりじゃないか!元気だったか!」
ギルドの近くまで来ると、教官が私達を見つけて、声をかけてくれた。
「お前達、また活躍したそうじゃないか!」
教官は誇らしげに、話を続けた。嬉しそうな様子の教官を見ていると、なんだかこちらまで幸せな気持ちに包まれてくる。
「ありがとうございます。ギルドのメンバーの方々は、この騒動でも無事だったんですか?」
「大変だったぞ。モンスター討伐の組織だけに、動員がかかりそうになってな!危うくお前さん方と戦う所だった!戦ってたらここにはいなかっただろうがな!」
教官は笑いながら、私の問いかけに答えてくれた。
「戦う所だったというのは?」
「元々ギルドは連邦の組織だしな!連邦を脱退した王国はもはや、我々とは関係なかったから、それを盾にして言い逃れたのだ!」
高らかに笑った後、教官は真面目な顔に変わって、話を続けた。
「だが、連邦も崩壊、我々の組織自体の存続が危ぶまれている。まあ、お前さん方の国が出来てから、モンスター相手に戦うことも、減ったのでな。仕事自体が少なくはなっていたのだが……解体の時も近いのかもしれないな」
ギルドが解体される事になれば、職を失うものも多くでてくることになるであろう。それはそれで困った問題である。
「ギルドが独立した組織になるっていう事は無いのかな?」
「まあ、難しいだろうな。この平和な時代では、どうしても活動資金が拠出できないしな。まあギルドが不要になる、平和な時代が訪れるというのは良いことだ!」
だが、元々ギルドは、リラさんがモンスターと人間を繋ぐ架け橋として、作った組織でもある。だからこそ、私はこの組織に消えて欲しくはなかったのだ。
「元々、戦いには自身のある連中だからな!何処か仕事先は見つかるだろう!そんなに心配はするな!食いっぱぐれることは無いさ!」
心配そうにしている私達の様子を見て、教官はなんとか励まそうと明るく振る舞ってくれた。私もギルドの一員であるし、なんとかしたいところではあったが、流石に、私の国で皆の面倒を見るというのも難しい。なかなかに軽く何かを言えるような話でもなかった。
すると、教官は、すっかり暗くなってしまったムードを変えるかのように、口を開いた。
「それより、お前さん方、すっかり有名人になったな!今この街でも、お前さん方人気になっているぞ!」
教官はフリスディカの街で配られている、新聞の記事を私達へと見せてくれたのだ。




