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Shanghai Palace   作者: kamakura betty
9/14

祭囃子

白浜神社の例大祭は10月で、7つのかがり火がたかれた幻想的な祭りだが、

街中の八幡神社の例大祭は8月半ばに行われる。

大阪夏の陣で勝った徳川軍の陣太鼓の様子を真似たものらしく

通称”太鼓祭り”と呼ばれ、笛や三味線、太鼓を打ち鳴らしながら

一日中町内を練り歩くとても賑やかなお祭りだ。

ともに下田っ子の楽しみなイベント。

多くの人が集まって町全体が浮かれる日となる。

間原とめめぞうはそれぞれ家庭教師を済ませ、

下田駅のそばのお好み焼き「まんぼう」にいた。

地元の山芋を使った滑らかな生地が人気で、

祭りと相まってしばらく並んだがようやく入れた。

「早く生ビール飲もうよ!」「だね、大ジョッキ二つ!」

マンボウに来たら絶対一つは豚玉、もう一つ頼むなら

その日の取れたてのものが入ったおすすめ焼を頼むのが定番だ。

今日は岩ガキとアナゴらしいのでもちろんオーダー。

「ここまで聞こえるね山車の音。夏って感じだよね」

さすがに浴衣はこっちへ持ってきてないので

ヘインズの白いTシャツと白い短パン姿だ。

Tシャツの袖を折ってノースリーブ風にしている。

間原はめめぞうのTシャツ姿が好きで、

きっと今日も着て来てくれるだろうとおそろいのヘインズを着てきた。

「ものすごい人だったね。あのお囃子てのは鳴ってるときは

華があってぱあっと明るくなるんだけど、

一旦演奏が終わると”今までのは何だったんだろ?”って感じにならない?

そのまま終わっちゃったりするともう無性に寂しくなちゃって…。

だからめめぞう誘ったんだよ」

「わかったわ、お祭り終わってもしばらく一緒にいてあげる」


豚玉が終わりおすすめ焼の焼けるのを待っていると

店の引き戸が空き暖簾をくぐってカップルが入ってきた。

「おおっマツ!来たんだ!」

意味深に目くばせするマツの後から大人の女性が入ってきた。

「誰だよあの人、すっげえマツのタイプじゃん」

二人は顔を寄せ小さい声で話す。

「寛ちゃん、めめぞう来てたんだねー。この人は稲森裕子さん。

自由が丘でお店を持つ女社長!」

余計なこと言うなという感じで裕子がマツの背中をつねる。

そのやりとりに白ヘインズの二人は関係を悟った。

「あっちの座敷に行こうよ。じゃあまたね」

マツはそそくさと二人から離れるように奥へと消えた。

「あれはナンパしたね。しかも一昨日くらい。昨日は爪木崎灯台」

「何?その具体的な感じ」

「マツのゴールデンコース!」

「サイテー!!」

岩ガキとアナゴのお好み焼きは絶品だった。

奥の座敷は二人だけの世界に入っているので

声をかけずに店を出た。


祭り囃子は聞こえなくなっており

人の群れが駅へと流れている。

「下田って来るたびに故郷になっていくよね。

踊り子に乗って伊東あたりに来ると帰ってきたなぁって。

大きな半島の先っちょだからいろんなことが

これまでやってきたことと違うのかななんて思ってたけど

むしろ東京みたいに目まぐるしいとこと違って

何も変わってなくてほっとするの」

「変わらないって、実は努力が必要なんじゃないかな。

さっきのお囃子も江戸の頃から変わらず繋いできたわけでしょ」

「変わらないって進歩がないってわけじゃないんだね」

赤いビニールに包まれた綿菓子を持つ子、

ボンボンを弾く子、浴衣の子、この日だけの夜遊びにはしゃぐ子、

お祭りは子どもたちの一番のイベントなのだ。

「めめちゃん、見いつけた!まだ帰らないの?」

めめぞうの居候している宿に長逗留しているナイスミドル須能さんだ。

宿のある多々戸から愛車ミニモークで迎えに来てくれたみたいだ。

夕方も街まで送ってくれた。

「来てくれたんですか!でももうちょっと用事があって…」

「あ、そう。ノープロブレム。わたしも用事済ませた帰りだから」

後ろの車に急かされる形で赤い小さなバギーは去っていった。

「寛ちゃん寂しいって言ってたからね」

「あれ嘘だけど」

「いいの私が寂しくなっちゃうから。寛ちゃんの部屋行こ!」

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