表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Shanghai Palace   作者: kamakura betty
14/14

静かなまぼろし

ズブロッカのロックは2杯目になっていた。

窓の先の水面は変わらず鏡面のように静かで、

オレンジ色のハロゲンライトを映し“夜焼け”のよう、

心を乱し昂らせる人工光の不躾が気になり始めていた。

高所から眺める都市の夜景とは違い、

手が届くほどすぐそこの港景は釣り人たちが残していった

絡んだ釣り糸やビニール袋などがしっかり目につく。

「闇の中にそのままにしておいたほうがいいものってあるのにな」


店に小さくかかっている音楽は有線の歌謡曲。

雰囲気には合わないと思うのだが、何故かいつも変わらない。

いつしか松任谷由実の「静かなまぼろし」になった。

アルバム「流線型‘80」に入っている曲。

別れた彼が偶然同じ店に入って来て、

彼は気付かないまま知らない女性とメニューを選ぶ、

その声を背中に聞いている、と言う歌詞だ。

間原の背中には初老の夫婦がお互い椅子の背もたれに寄りかかり

来週自分たちの家にやってくる孫の話をしている。


父親が倒れ、一命はとりとめたが介護生活が始まった。

長男の間原は母親を支え諸手配を行ううちにひと月が経っていた。

下田のおばちゃんに連絡できたのもあの一週間後だった。

めめぞうのことをそのときに知った。

めめぞうの連絡先は知らないまま、

自分の手紙だけめめぞうに託されたことになった。


1985年11月1日金曜日 24;00。

間原はめめぞうが来ることのないことを悟り

赤いネオンを後にした。

霧はまだ深いままだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ