表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/181

ガーヤガラン到着

さて、お話は、馬車がガーヤガランに到着するところからはじまります。






 シュメリルールを旅立って3日目の午前中、街道沿いに街が見えてきた。街道を挟むように左右に広がる『ガーヤガラン』は、サラサスーン地方で1番大きな街だ。


 三方向から街道が交差する、交易の拠点であり、上級学校や武術の道場、大きな商会の本店や、各街を取りまとめる議会を統括する本部もある。


 ちなみに、ロレンの商会の本店やガンザの息子が通っている学校があるのもこの街だ。


 人や物や情報が集まってくる大きな街特有の、焦燥しょうそうとも活気とも取れる、独特の熱気を感じる。


 馬車道を通り、倉庫街へと抜ける。護衛の面々が荷物を降ろしている間に、俺とハルは馬を厩へと連れて行く。この街では宿屋に二泊するそうだ。


 水をたっぷり飲ませて、飼い葉を飼い葉桶に入れる。馬の様子は、シュメリルールを出発した時よりは幾分いくぶん落ち着いたが、やはりいつもと違うように感じる。体温が若干高いのがどうにも気にかかる。


 どうしたものかと思いながらも、馬の身体を拭いてやっていると、トプルがやって来た。病気の心配もしていたので聞くと、どうやら発情期はつじょうきらしい。


「発情期ってなに?」というハルの質問に恋の季節だと答えながら、ナルホドと納得する。


 キャラバンの牡馬は去勢済きょせいずみだが、それでも影響えいきょうがあるらしい。トプルが牡馬を他の厩へと連れて行った。


「恋のきせつってどんななの?」「去勢って何?」「なんであの馬連れて行かれちゃったの?」


 ハルから確信かくしんに迫る質問がポンポンと飛んでくる。


 ちょっと待ってハルくん、お父さんに時間をくれ!


 馬の去勢の話なんて生々しくてハードルが高いよ! もっとふわっと雄しべあたりからはじめさせて欲しい。


「ハルはどう思う?」


 俺はとりあえず、時間稼ぎに聞いてみた。


「馬が連れて行かれちゃったのは、同じ馬が好きだったりしたらケンカになるからかな?」


 うんうん、その通りだな。


「こいの季節って事は、秋とか冬はこいしないって事?」


「そう。動物には子育てに適した季節があるから、その時期に合わせてあるんだ。馬だと夏ごろ恋して、柔らかい草がたくさん生える次の春先に子供が生まれる。クーがそうだろう?」


「へぇ! すごいね。それ誰が決めたの? 神さま?」


 難しい質問がきたな。進化論か? でもこのまま去勢きょせいの話かららしてしまおう。ハルの性教育せいきょういくについては、俺の手に余る。第一こんな感じの事は、思春期の入り口あたりで、ロクでもない友達や先輩から聞くのが一番だ。盛り上がったりショックを受けたりして、大いに青春の1ページを飾って欲しい。


 進化について話しながら、馬の世話を続ける。牡馬の厩へと移動して、身体を拭いてやる。考えてみると、去勢馬の発情期なんてもの悲しいにも程がある。同じオスとして、その内いい事もあるさと、抱きしめてやりたくなった。せめてたくさん食ってくれ。飼い葉しかないけどさ。



 馬の世話を終えて、キャラバンの面子メンツと宿屋へ向かう。獣の人にも恋の季節があるのだろうか? 歩きながらトプルに聞いたら、「まあ、ない訳じゃないな」と、苦いものをつぶしたような顔をする。ほほう、面白い話が聞けそうだ。


 ハルが寝てから飲みにでも誘ってみようか。


 宿屋で荷物を置いてから、早速リュートの姉ちゃんである、パラヤさんの家に向かう事にする。さゆりさんからの荷物と手紙を届けに行くのだ。商会で小さな荷車を借りて、荷物を載せてハルと歩く。


 ガーヤガランの街並みは、白い石作りが基本になっていて、シュメリルールと良く似ている。茶筒やサイコロのような形がつらなって、一軒の家になっている。増築ぞうちくの結果なのかも知れないな。


 それにしても見渡す限りに赤茶色の地面の広がるサラサスーン地方で、なぜ白い街が出来るのだろう。


 さゆりさんに聞いた、通りの名前を探しながら歩く。俺とハルはポンチョのフードが風で外れないように、あごのベルトを締めた。


 大きく張り出した日除け布が連なる、市場を歩く。果物を売る店で、「好きなの買って来ていいぞ」とハルに金を渡すと、見たことのない鮮やかな黄色い房状の果物を買ってきた。


 皮ごと食べられるって、と言って早速かぶりつく。


「うわー酸っぱい! あ、でも皮が甘くて面白い」


 言いながら、荷車を引く俺の口に放り込んでくれる。


 意外に硬く、噛み締めるとタピオカのような歯ごたえだ。じゅるりとみ出る果汁はなるほど酸味が強いが、皮と果肉の間に甘い層があり、追いかけるように甘みが広がる。


「東の国のくだものだって。あ、道も聞いておいたよ。この通りを抜けたら左だってさ」


 ハルも随分ずいぶんこの国に馴染なじんで来たものだ。俺と同じで相変わらずカタコトだが、ヒヤリングは俺の上を行く。子供の適応力におっさんは敵わんよ。


 ハルがポーンと投げる実を、パクッと食べながら歩く。ポーンパク、ポーンパクッと歩く。ハル、迷惑にならないよう、気をつけてな。あ、俺もか。


 長い市場通りを抜けて左に曲がると、徐々に食べ物屋が減り、金槌や針、靴やカゴの絵の看板が目に付きはじめる。職人や工房が集まる通りだろう。


 さゆりさんの話だと、パラヤさんは刺繍、ご主人はガラス細工の職人だそうだ。それっぽい看板を探して、聞いてみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ