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またたび、また、旅

 空が白みはじめるのを待って、大岩の家を出る。今回は湿っぽくならないで出発できた。馬は前回と同じで、リュートが返しに来てくれる。いっそリュートの顔も見ないで出かけてしまいたい。こっそりうまやに繋いでしまおうか。


 この、物にも人にも執着する体質には、我ながらうんざりする。ナナミには「執念深い!」と言われる。ひどい言い草だ。情が厚いとか、愛情がいとか言って欲しい。


 結局、リュートの家の厩に馬を繋ぎ、馬の背中に『行ってくる。あとの事は色々頼む』と日本語で書いた貼り紙を貼っておいた。




 さて、キャラバンは砂漠の先にある『ポーラポーラ』という街を目指す。ここで宝石の買い付けをするらしい。シュメリルールからはラーザの塩やスパイス、チョマ族の毛織り物や細工物、シュメリルールの特産であるチーズやヨーグルト、トマトやジャガイモを積んで行く。途中、街や村へ多く寄り、それらの品を取り引きするのだ。


 その街や村で特産品などを仕入れ、街道の行き止まりの街『ルッソ』で降ろす。季節や市場しじょうの流れを読む、商人の腕の見せ所だとロレンが言っていた。なるほど商売も奥が深いものだ。




 商会の倉庫に着くと、馬車に荷物を積む活気のある光景が広がっていた。ハザンの怒号が飛び交い、トプルやヤーモが驚くほど多くの箱を担ぎ上げて行く。ガンザは腰が痛いと言いながら、適当な感じでチョロチョロしていた。


 俺とハルは、馬の様子を見に行く事にした。馬はすでにピカピカに磨きあげられ、気力も体力もみなぎっているのか、俺はやるぜ、やってやるぜ!みたいな声が聞こえるような勢いだった。


 俺が首をポンポンと叩き、「ま、またよろしく頼むな」と言うと、俺はやるから、おまえもな! とでも言うように、ブルルルと盛大に首を振った。ロレンのやつ、なんか一服いっぷく盛ったんじゃねぇの?



 先頭の馬車のガンザが『ほう!やー!』といつもの掛け声をかけ、馬車はいつものようにあっさりと走り出す。商会の前を通ると、この前の店番の女の子が見送っている。俺とハルが手を振ると、はにかむように笑って手を振ってくれた。


 馬車道を抜け、街道に出る。徐々に小さくなっていく、シュメリルールの白い街並みを眺める。赤い砂の上に、白い貝殻を撒き散らしたような光景だ。この街並みをナナミに見せてあげたいと思った。きっと気にいるはずだ。



 馬車は、まずはここから3日くらい走ったところにある『ガーヤガラン』という街を目指す。実はこの街にはリュートの姉ちゃんであるパラヤさんが住んでいて、さゆりさんから手紙や結構な量の荷物を預かっている。


 というか、さゆりさんは正式にキャラバンに依頼し、料金を支払っている。このへんをなあなあにしないところが、あの人の凄いところだと思う。


 そういえば、リュートがキャラバンの幌の骨組みを修理してくれた。この世界ではあまり見ない鉄パイプを使い、軽いと頑丈を両立させている。1番嬉しいのは、乗っても平気!とお墨付きを貰った事だ。俺とハルは幌に登って景色を眺めるのが大好きだ。


 ロレンはたいそう感心して、商会全体の馬車の幌を、全てこの仕様とする事を決めた。鶴の一声というやつだ。おかげでリュートは鍛冶屋とは違う方向へ進んでしまいそうだ。


 ハルが早速幌に登る。さゆりさんお手製のポンチョが風にあおられ揺れる。俺は落ちるなよ、と声をかけてから御者席のトプルの隣に座った。


 トプルが低く小さく、シュメリルールの流行り歌を口ずさんでいる。少し調子の外れたかすれ声が、茜岩谷サラサスーンの朝の風に流れていった。

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