次の目的地と能力強化の事 ★
次の旅の目的地は、ポーラポーラという街だ。なんと砂漠越えがあるらしい。街道が途切れるまでは馬車で進み、行き止まりの街で殆どの荷物を降ろす。馬車と馬を預かってもらい、『パラシュ』という動物に乗り換えて砂漠の難所を越え、ポーラポーラを目指す。
ポーラポーラは有名な宝石の産地だという。そして、ポーラポーラの街から馬で2日ほど行くと海辺の街『ミトト』がある。ここに俺とハルが目指す教会がある。
旅の行程は往復で約2ヶ月。ラーザの時の倍近く、大岩の家を空ける事になる。
出発は二週間後。その間、せめてなるべくハナと一緒に過ごそうと思った。
リュートの工房での宴会の時、俺は前から気になっていた事を、思い切って聞いてみた。
さゆりさんが、言っていた身体強化のような能力や、『気』についてだ。
それは俺が尻尾の動かし方を聞くのと、同じような話になってしまうのかも知れない。でも俺は、少しでも自分で出来ることを増やしたかった。スリングはあるが、頰に怪我をした時のように、近寄られたら為す術がない。いい年をしたおっさんが、自分の身すら守れない今の状況は、精神的にキツイ。
ガンザが、「俺だって近接戦闘はできないぞ」「それに俺の方がおっさんだ」と言ってガハハと笑った。それでも、ガンザだって獣の姿になれるのだ。まだ見た事はないけれど。
俺は、ハルとハナを連れて俺たちだけで旅に出た場合、2人を守らなければならないのだ。
とりあえず、みんなに自分の出来る能力強化について聞いてみた。
ハザンは走る時に足、剣を振るう時には腕に使うそうだ。
ガンザは弓を射る時は腕に、獲物を探す時に、聴力を強化するらしい。
ヤーモは薬草やキノコを探す時に、鼻に使う。後は体力を温存させたい時に、小出しにするイメージで使うらしい。
アンガーは鉤爪を使う時に握力、ジャンプする時、膝に使う。
ロレンは集中したい時と視力強化。暗視能力も上がるそうだ。
リュートは腕と足、視力と聴力も強化出来ると言った。へー、スゴイデスネ。
トプルは蹴り技を使う時に足、相手の出方を見るために視力強化を使う。筋肉の動きを見るのだそうだ。なるほど、トプルの防御の巧みさは、理由があっての事なんだな。
結論から言おう。みんなチートじゃねぇか! なんでこんな、国民総超能力者みたいな世界なんだよ。子供の頃から、使い続けた能力? アラフォーの俺にどうしろと言うんだ。
俺は参ったなと思いながら酒を呷ってみたりした。酔えねぇ! 俺だってたまには、酒に逃げてたい時もある。酔って愚痴ったりしてみたい。ハルの見てないところで泣き言を言ったっていいじゃないか!
まさかこれが俺の能力強化なのか? 酒に酔わない能力? 使えねぇな! いやいや待てよ、ラノベの主人公の中に、そんな感じで毒耐性を上げていったやつがいなかったか?
ハザンにそんな感じの説明をしてみたら、また可哀想な子を見る目で見られた。
クッ、やっぱりモヒカンにしてやれば良かった。
どうやって強化するのか、やり方も聞いてみた。これもそれぞれ違っていた。
ロレンはカチッと嵌る感じがすると言った。アンガーも、ああ、そんな感じだなと言った。
ガンザは覆いを外すイメージだと言った。ハザンは足や腕に集めてくる感じ、と表現した。トプルは混ぜてかき回す感じらしい。
ヤーモは、なるべく何も考えないようにする、と言っていた。ヤーモらしいなと思ったが、それって悟りを開くとか無我の境地ってやつじゃねぇの? すげぇな!
リュートは、やろうと思えば出来るそうだ。おまえ、世直しの旅とか出た方が良いんじゃねぇの?
共通するのは集中と、なんらかのトリガーだろうか。
考えてみると、地球にも火事場の馬鹿力は根拠があるという話を聞いた事がある。脳が無意識にかけているリミッターが外れるらしい。テニスや砲丸投げの選手が、インパクトの瞬間に奇声を発するのは、このリミッターを意図的に外すためだと言われている。
みんなの言う強化能力も、まるっきりの絵空事ではないのかも知れない。
カメ◯メ波についても聞いてみた。
これはもう達人級の人が、何十年にも渡る壮絶な修行の果てに、辿り着けるとか着けないとかの話になってくるらしい。ハザンとトプルの師匠の師匠にあたる人が、気を放つ人と闘った事があるとかないとか。どっちだよ!
がっかりしている俺を、またハザンが可哀想な子を見る目で見てきたので、
毎日朝晩、カメ◯メ波出すために瞑想してるハルに、おまえソレ言えんのか?
と言ってやった。そうしたら明らかに動揺した後、
「ハルならやるかも知れん」と、真面目な顔をして言った。
俺より親バカがいたよ! 親じゃねーけど。
ちなみに、砂漠に強いと言う動物『パラシュ』について図鑑で調べてみたら、馬くらいの大きさのトカゲだった。
俺が世話するんだよな。大丈夫かな‥‥。ラクダ、居ねえのかな。
この日、完全状態異常耐性という能力を持ち、ふたつの世界を救うために闘ったある男の物語が、始まるかと思えばそんな事もなく、ひっそりと幕を下ろした。




