発熱と悪い夢
短いので、閑話が入ってます。
その晩は、熱が出た。
俺はインドア派の割に身体が丈夫で、もう何年も寝込んだ記憶はない。久しぶりの発熱は、疼くような頰の鈍痛と共に俺の気力を奪って行く。
何度も悪い夢を見て目が醒める。ハルが狼に引き裂かれる夢、ハナがサラサスーンから消えてしまっている夢、ナナミが恐ろしい悪人面の男に斬りかかられる夢。
こんなに的確に、俺の精神を抉る攻撃を仕掛けてくるのは誰なんだよ!
俺だ。
俺が普段考えないようにしている、嫌な想像ばかりだ。
魘されて目を醒まし、引き摺り込まれるように、また浅く眠る。
途中、何度か苦いものを無理やり喉に流し込まれた。
目が醒めると、俺の顔のすぐ目の前に、泣き腫らして眠るハルの顔があった。
最近泣いてなかったのにな。ハルはハルなりに、何かの決心を持って涙を堪えていた。それがわかっていただけに、申し訳ない気持ちになった。
しかし喉が渇いた。怠さと頭痛はあるが、たぶん熱は下がっている。俺の白血球さんは良い仕事をしてくれたらしい。
破傷風や狂犬病は、確か潜伏期間があったはずだ。狂犬病が発症した場合の死亡率は100%だから、もうどうしようもないんだけどな。
額のタオルを取り、汗ばんだ顔を拭っていると、ハザンが抱き起こして水を飲ませてくれた。
クッ!こんな弱った姿をコイツに見せるのは、なんかムカつくな!
まあ、ありがたいんだけどさ。
その日の午後には、フラフラしたが立ち上がれるようになった。アンガーが泣きそうな顔で様子を見に来てくれた。
バカヤロー。おまえはハルのヒーローなんだから、しゃんとしてろよ。
幌が壊れたのも、俺が怪我したのも、おまえの所為なんかじゃないだろ!
ってな感じの事を伝えたかったが、頭回らないし喉も痛いし、面倒くさくなって手を伸ばすとアンガーの頭をぐしゃぐしゃとかき回し、バーカ、と言っておいた。
たぶん伝わったはずだ。なんてな。
晩メシはお粥を食べる事が出来た。食後にヤーモに、また苦いモノを飲まされる。これが何かはおそらく聞かない方が良いだろう。熱冷ましで苦いとくれば、たぶんアレだ。土の中にいる、アレだ。
次の日の朝には身体も軽くなった。そろそろリハビリがてらメシ係に復帰しよう。トレーニングもストレッチから再開だ。
馬車は、明日には街道へと出る予定だ。
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挿話〜ハザンのヒロト看病日記〜
ヒロトが怪我をした。目の下から顎にかけて灰色狼の爪にザックリとやられた。こめかみの大きな血管や、目に傷がつかなかったのは良かったが、たぶんかなり目立つ痕が残るだろう。
夜半から熱が出て、うなされて何度も目を醒ます。ヤーモが熱冷ましだという、ミミズの煎じたやつを飲ませていた。
うなされて、故郷の言葉でうわ言を繰り返す。さっぱり意味はわからなかったが、聞き取れる言葉もあった。「ハル」「ハナ」「ナナミ」だ。こいつにとって家族は、よっぽど大切なんだな。
自分の子供が可愛いのはなんとなくわかる。俺もハルは可愛い。だが、嫁ってぇのはよくわからねぇ。所詮他人じゃねぇか。
俺にとって女は、あったかくて柔らかくて気持ちいいものだ。あと金がかかって、面倒くせぇ。ヒロトにとっては違うのか? 違うんだろうな。
キャラバン唯一の妻子持ちのガンザに聞いてみた。そしたら、
「ハザン、おまえ女に惚れた事がないのか?」と、逆に質問された。
「まあ、ヒロトみたいに子供が2人もいるのに、惚れた腫れたとか言ってる夫婦はあんまりないけどな」
俺んとことは大違いだ、と言ってガハハと笑った。
俺は、自分が万が一女に惚れて、ヒロトみたいになったらなんだか面倒くせぇな、と思った。
だが、そんな女に出会えたヒロトが、羨ましい気もした。
まあ、一瞬そんな気がしただけなんだけどな。
本話にて第2章終了です。ここまで読んで頂き、ありがとうございます!しばらく茜岩谷の大岩の家でのんびりしたり、キャラバンの面々と騒いだりして過ごします。
そしてまた、旅です。今度の旅では、どんな風景に出会えるのでしょう。どんな出会いが待っているのでしょう。そしてナナミさんと会う事は出来るのでしょうか。
ヒロトやハルと一緒に異世界の旅を楽しんで頂けたらと思います。
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