とりあえず、というのは便利な日本語だ
「じーじ! じーじ、にゃー!」
さっぱり意味のわからない言葉と、ネコ耳に呆けている俺とハルを差し置いて、真っ先にコミュニケーションを試みたのは、なんとハナだった。
しかもにゃー、って言っちゃったよ。
じーさんに向かって手を伸ばして、ネコ耳ガン見だ。いや、俺らも見てんな。すまんじーさん。
「こんばんは! ハルです、8さいです」
次いでハルが挨拶からの自己紹介。そう、挨拶大事だよな。でもお父さん意表を突かれたよ。
次は俺か。三段落ちか。いや落ちは思いつかなかいな。とりあえず日本語で話しかけてみるか。なるべく不審者と思われないよう、大人の対応で行こう。
「お騒がせして申しわけありません。野営中に野犬に襲われてしまいました。恐れ入りますが、ここは何という場所でしょうか? 道に迷ってしまったみたいで‥‥」
道に、というか、色々迷いまくりだけどな。
しばらくじっと俺たちを見つめていたじーさん。
「コイ」
と言って、俺たちに背中向けて歩き出す。
『来い』か?
しばらく歩いて、立ち尽くす俺たちを振り返り、じーさんが手をヒラヒラ振り、おいでおいでをした。
ついて行って良いものか迷う。野犬の群れとなんかアレなネコ耳じーさん、どっちが危険なんだろう。
迷った末に、急いで焚火にペットボトルのお茶をかけ、じーさんを追いかける。
じーさんはそれはそれは身軽だった。ヒョイ、ヒョヒョイっと、隆起した高台へと上がってゆく。
じーさん、それ、俺には無理だから。幼児背負った運動不足の四十路間近のおっさんだから。
しばらく見上げていると、目の前の切り立った崖が、
ゴゴゴゴ、ガガーン!
と左右に別れた。
なにソノ秘密基地っぽい装置!! これは高性能付け耳マッドサイエンスじーさん確定なのか?
入り口らしき壁穴から、じーさんがニヤリと笑いながら顔を出す。ドヤ顔ですね、わかります。このギミックはヤバすぎる!
またもや、ヒラヒラと手招きするじーさん。期待と不安で俺の顔を覗き見るハルに、意味もなく大きく頷き返し、意を決して踏み込む。
そこには、高台を丸々くり抜いたような地形で、こじんまりとした畑と灯りの灯った木造らしき家があった。




