表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第2章 キャラバンのお食事係と旅日記
73/181

クライミング

 チョマ族の放牧地から順路へと戻り、なだらかな登り道を辿りはじめて3日目。ラーザの街を出て九日目の午後の事だ。ハルが切り立った崖の中程に、ビークニャの子供がうずくまっているのを見つけた。


「おとーさん、どうしよう」


 ハルは声をひそめて、心底困ったという顔をして言った。


 あのビークニャの子供を助けたいと思う事が、キャラバンの迷惑になるとわかってしまっているのだ。もちろん自分で助けに行けるはずがない、馬車を止めてもらい、更に誰かの手をわずらわせる事になるだろう。かと言って、見なかった事には出来なかったようだ。


 俺もどうしようかとうなる事しか出来なかった。


 その時、1番前の馬車から、アンガーがひらりと飛び降りた。腰に鉤爪を下げ、肩にロープの束を担いでいる。


 助けてくれるつもりだ!


 しばらくして「ほーう! ほほーう!」と掛け声がして、馬車が順番に止まる。


 アンガーはすでに崖を登りはじめていた。ネコ科の動物そのままの、しなやかな動きでわずかな足場から跳ぶ。張り出したように生える、頼りない木の枝に手をかけ、勢いを殺さず次の足場へと飛び移る。


 足場がなくなると鉤爪を逆手さかてに持ち崖へと突き立て、手のチカラだけで登って行く。


 あと少しだ!


 ふと気づくと、キャラバンの全員が馬車から降り、息を飲んで見守っている。


 足場がガラガラと崩れ、ヒッっとハルが短く悲鳴をあげ俺の脇腹にしがみつく。ロレンがそっとハルの頭に手を置き、


「アンガーの身の軽さは山猫並みです。ほら、大丈夫ですよ」


 と言った。見ると片手で崖に鉤爪を突き立て、空いた手と口とでロープに輪を作っている。斜め上の木の枝めがけて投げる。


 掛かった!


 ロープを伝い木の枝に足をかけて跳び、ビークニャのいる踊り場へふわりと着地する。


 どうやら立ち上がれないらしいビークニャの子供を、アンガーがポンチョを脱いで包み、背中にもう一本のロープでかつぎあげる。


 それからは早かった。ロープを伝いトーン、トーン、と壁をりながら降りてくる。着地していつもの無表情のまま歩いて来た。


 ハルが待ちきれずに走り寄り、つい、といった風に興奮して日本語で言った。


「アンガー、テレビのヒーローみたいだった!」


 アンガーは「ハル、なに? ひーろー?」と、首をかしげた。


 俺が「英雄えいゆうみたいだってさ」と、異世界語にやくすと、首まで赤くして照れていた。





 ビークニャの子供はかなり衰弱すいじゃくおびえていたが、蜂蜜を溶いたぬるま湯を、スプーンで少しずつあげるとやっと飲んでくれて「メェー」と鳴いた。


 後ろ足を脱臼だっきゅうしていたのを、ハザンが嵌めてくれた。


 ハルが心配そうに付き添っていると、ロレンが来て、


「その子が元気になるまで、ハルが面倒見てくれますか?」と言った。


「いっしょに行く、良いの?」とハルが聞くと、


「今から戻るのは無理ですし、野生のビークニャかも知れませんしね」




 ハルは、どうやら相棒と出会ったらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ