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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第2章 キャラバンのお食事係と旅日記
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チョマ族到着!

このお話しから、キャラバンメンバー全体の敬称がなくなっています。ヒロトの親密度上がった現れと思って下さると幸いです。ガンザールさんは長いので、「ガンザ」です。










 放牧地で2回の夜を過ごした次の朝、


「午後まで待って、来なかったら出発しましょう」


 と、ロレンが言った。キャラバンは商会の利益の為に動いている。危険さえ伴わなければ、ハザンたち護衛はロレンに従う。態度はでかいが。


 俺とハルは、危険から守ってもらい、移動手段を提供してもらっている立場だ。我儘わがままをいう場面ではない。


 俺は小さくはないがっかり感を、表に出さないよう気をつけながら、朝メシの後片付けをした。ハルはヤーモと一緒にハザンとトプルの立ち稽古を見物している。もっともヤーモは、ただボンヤリしているだけかも知れない。


 アンガーが馬車のほろに腰掛け、草笛を吹きはじめた。低く、おだやかな旋律せんりつが風に流れる。


 急いで食器を片付け、俺も幌に登る。並んで座り一緒に吹く。放牧地に着いてからアンガーに教えてもらい、ようやく音階が吹けるようになった。葉っぱを下唇に当て、上唇で震えるように調節して、音階は口の形で作る。ラーザの舟歌ふなうたや、わらべ歌を教えてもらった。


 俺は高校の時、軽音楽部に所属していた事もあり、音楽を聴くのも楽器を演奏するのも大好きだ。ふたりで草笛を吹くのは、セッションのようでとても心地よい。


 アンガーの旋律を輪唱りんしょうのように追いかけたり、コーラスのように高く寄り添うように音をつむいでいく。アンガーの草笛は柔らかで、胸に染み入るようにひびく。持ち前の肺活量で、緩急かんきゅうをつけて長く吐き出される低音には、特に深い味わいがある。


 ふと、アンガーの丸みを帯びたヒョウ柄の耳がピクリと動いた。視線の先を追うと、しばらくして放牧地の向こう側の森から、動物に乗った数人の人たちがやって来るのが見えた。チョマ族が到着したのだ。


 アンガーが見事な跳躍ちょうやくで、音もなく幌から飛び降りる。ロレンを呼びに行ったのだろう。俺ははやる気持ちを抑え、ひたいのゴーグルを装着して、やって来る人たちにピントを合わせる。フエルトの帽子をかぶっているので定かではないが、耳の大きなラマに似た動物乗ったその人たちは、確かに頭頂部とうちょうぶに耳がない。


 やがてビークニャの群れが姿を現わす。春先に生まれたのだろう、数頭の子供を群れの中心で守るように、ゆっくりと歩いてくる。


 ロレンが出迎でむかえ、何か話している。


 ビークニャの群れが放牧地に収まった頃、チョマ族の子供や女性、年寄りが乗った荷馬車が到着する。待ちきれない子供が馬車から飛び降りて走り出す。


 子供のポンチョがはためくと、尻付近から見事な尾羽が覗いていた。


 チョマ族の人たちに、耳と尻尾は確かになかった。


 鳥の人じゃねーか!






 その夜は宴会となった。


 お互いの食材を提供し合い、ロレンの手土産の酒が景気良く振舞ふるまわれる。


 炊事場は戦場だった。簡易の石窯いしがまがいくつも作られ、チョマ族の女性が手際良く包丁を振るう。


 チョマ族の人たちはなまりがキツく、俺には何を言っているかほとんどわからなかった。だが、台所仕事は限られているし、身振りや簡単な単語でコミュニケーションを取るのも、最近ではお手の物だ。なかなか興味深い調理法や、独特の調味料もあるので、時間がある時ゆっくり教えて欲しいものだ。


 ハルはチョマ族の子供たちと一緒に、水をんだり野菜を洗ったりと奮闘ふんとうしている。


 料理が出揃い、大きなが組まれ、その周りで宴会が始まる。


 チョマ族の人たちは、カラフルな尾羽と、手首から肘にかけて小さな羽が生えている。もちろん人の姿で飛ぶことはできないが、この羽をひらめかせて踊る。軽やかな弦楽器と、小さな太鼓をリズミカルに打ち鳴らし、飛び跳ねるような可愛らしい踊りだ。


 チョマ族のポンチョは、原色が多く使われたカラフルなシュメリルールのものとも、淡い色合いでふわりと風に揺れるラーザのものともちがう。フエルトで出来ていて、刺繍ではなくアップリケがほどこされている。動物や植物をモチーフとしたアップリケは、年齢や性別により印象が異なる。


 酔ったハザンとガンザが踊りの輪に入り、けっこう器用に踊る。アンガーがチョマ族の縦笛を借りて演奏に加わり、ヤーモも木片を叩きはじめる。


 ハザンが俺とハルを、無理やり踊りの輪へと引っ張り込む。最初は恥ずかしそうに縮こまっていたハルは、ぴょんと跳ねてみたら楽しかったらしい。チョマ族の子供たちに混じりリズムに合わせて飛び跳ねはじめる。俺も不恰好ぶかっこうに跳ねる。大きなき火の火に照らされて、誰も彼も笑っていた。


 やべぇな! コレ、すげぇ楽しい!


 宴会の終わりにチョマ族の中年女性が、アカペラで歌ってくれたのがまた凄かった。どうやら山を降りた同胞どうほうへの想いを、渡り鳥になぞらえたらしい歌詞の、ゆっくりとした歌だった。


 やるやかで単純な旋律を繰り返しながら、ソウルフルな低音と、透き通った高音が、入れ替わり混ざり合い、からまり合う。


  渡る鳥よ、戻らなくとも、どうかすこやかで

  私はずっと、ここにいるから


 圧倒的あっとうてきな声量による、わずかに哀愁あいしゅうを帯びたメロディラインが、暗い山々にこだました。


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