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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第2章 キャラバンのお食事係と旅日記
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イベント中日(なかび)

 翌朝は久し振りに少し寝坊した。特に自分では深酒したつもりはなかったが、薄い膜が全身を覆っているような感覚の鈍さを感じる。無理のかない年齢へ差し掛かった事を、思い出すのはこんな時だ。


 異世界効果で若返ったりしねぇのかな。ちぇ。


 ハルはもう起きてスリングの練習をしていた。部屋の隅にまとを置き、対面にうつ伏せで寝転び丸めた紙を打っている。タン、タン、と小気味良い音が耳に心地いい。


 おはようと挨拶を交わし、タオルと歯ブラシを持って2人で宿の井戸へと向かう。顔をしかめて歩く俺にハルが、おとーさん、のみすぎなんじゃないの? なんて、誰かを思い出す口調で言った。


 冷たい井戸の水で顔を洗うと、少しずつ身体の感覚が戻ってくる。歯を磨きながら、


「ハル、お父さん、馬の世話しに行くけど一緒に行くか?」と日本語で聞くと、うん、と頷いた。


 軽くストレッチしてから、宿を出る。


 朝の煮炊きの煙が、あちこちの家のトンガリ屋根から上がっている。荷物を積んだ荷車を引くネコ耳の男が忙しそうに通り過ぎると、干物の匂いが取り残されたようにプンと漂った。


 どこの世界も、どこの街も、朝の空気は似ているな。みんな目的を持って動いていて、どこかせわしない。


「おとーさん、ぼくまた海に行きたい」


 ああ、良いな! でもお父さん、腹減ったよ。さっさと用事済ませて宿で朝メシ食べよう。


 15分ほど歩き、ロレン店長の商会の倉庫へと着く。一旦いったん表へと回り、店の方に声を掛けたが返事はなかった。井戸で水をんでから、うまやへと向かう。ハルにも一回り小さな木桶を持ってもらったら、ヨロヨロとしながら顔を赤くして付いて来る。がんばれハルくん、ころぶなよ!


 飼葉かいばの桶も持って馬のところまで行くと、


「遅いのよ、何やってんのよ、腹減ったわ!」


とでも言いたげに歯を剥き出された。すまんすまんと、手早く飼葉を補充する。水をやり、身体を拭いてやってからヒヅメの点検をする。軽く削ってやるから、蹴らないでくれよ!死ぬからな!


 馬のたてがみは背中、尻へと繋がり、尻尾まで続いている。尻尾とたてがみは割とサラサラしているが、背中の毛はゴワゴワと硬い。辛抱強くブラッシングして、毛の生えていない腹や首をもう一度濡れた布でぬぐう。


 ハルはもつれた背中の毛に四苦八苦していたが、馬はなぜか慈愛に満ちた目で見つめ、時々顔をハルの頭にすり寄せたりしている。


 なんか俺への態度と、違い過ぎないですかね?


 馬の世話が終わったので、もう一度店で声をかけると、ロレン店長が眠そうに出てきた。シャツのボタンを2つも外し、落ちた前髪をかきあげる仕草が、壮絶な色気を醸し出している。おはようございます、という少しかすれた声に、俺でも顔が赤くなりそうだ。


 ハル! 見るな! アレはお前には毒だ!


 ナナミが見つかっても、ロレン店長には絶対に合わせないようにしようと心に決めた。ああ、ハザンには紹介しよう。うん。きっと気が合うはずだ。


 2日後の出発までに、食材を買って来るように頼まれた。なまものを買い過ぎないようにと注意され、金を渡される。


「ああ、荷物持ちが必要ですね。アンガーを呼んでおきますので、いつ行きますか?」


 アンガーさんはロレン店長の親戚なのだそうだ。ネコ科繋がりなのか?


「明日の午後」と答えておおよその時間を決め店を後にする。


 少し遠回りだが、海岸沿いを通って帰る。石を積み上げた低い防波堤ぼうはていの上をハルが走る。波の音というのは、なぜこうも静けさを感じさせるのだろう。規則正しく寄せては返す。この世界に月があり、重力が正しく働いている証拠だ。今は白く頼りなげに雲間に見え隠れしている。


 俺も少し走るか。随分先まで行ってしまったハルが、


「おとーさーん!」と手を振って呼んでいる。




 宿屋に戻って遅い朝メシを食べていると、ガンザールさんとヤーモさんが釣り道具をかついで入ってきた。けっこうな釣果ちょうかがあったらしくご機嫌きげんだ。一緒に朝メシを食べながら海の話しを聞く。昼に宿の台所を借りて、釣ってきた魚をご馳走ちそうしてくれるそうだ。


「明日の朝も行くから、ヒロトとハルも一緒にどうだ?」


 夜明けまでが勝負らしく、まだ暗いうちに出発すると言う。


「ハル、行くか?」と聞くと、


「うん! 行きたい!」と満面の笑みで答えた。


 明日のイベントも盛りだくさんだな。


 今日俺は、人通りの多い場所を探して似顔絵屋さんをやろうと思っている。ナナミの絵をなるべく沢山の人に見てもらいたい。教会ではなんの情報もなかったが、もしかしてナナミを知っている人がいるかも知れない。


 宿にも似顔絵を貼ってもらえるよう、頼んでみようと思う。本人、または居場所を知っている人が来たらサラサスーンまでの地図を書いた手紙を渡してもらう。教会にも、同じような手紙を預けて来た。


「おとーさん、早く海行こうよー!」


 ああ、そうだった。さっきそんな約束したな。イベント中日なかびでのんびり過ごせるかと思ったら、けっこう今日も忙しいな。ハナやさゆりさん夫婦、リュートのたちへのお土産も買いたい。


 さて、出かけるとするか。




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