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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第2章 キャラバンのお食事係と旅日記
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 結局その夜は、夜番を2人残して他の人は寝る事になった。興奮して寝られねぇよ、と思っていたら、寝袋に入って5分もすると瞼が重くなった。俺も図太くなったものだ。


 ハルにとって今夜の出来事が、トラウマにならなければ良いのだが。




 朝起きると、山猫の死体は片付けられていて、綺麗に剥ぎ取られた毛皮が、幌の上に裏返して干してあった。肉は固くて食べられないらしいから、穴を掘って埋めたのだろう。


 俺はさすがに寝不足で、ボーッとしたまま幌の骨組み部分に腰掛けて、タバコに火を点ける。この世界の過酷さを見せつけられる度に、ケモノの人たちの身体能力の高さを目の当たりにする度に、自分の衰えはじめた身体が恨めしくなる。ステータスオープンと、こっそり呟いてみた事もある。別に俺は神様に呼ばれて、この世界に来た訳ではないらしい。


 さて! 朝から卑屈になっていても仕方ない。自分の仕事をこなすとするか!


 夜番の2人におはようと声をかけ、朝メシの支度に取り掛かる。樽から水を汲み、飯を炊き、厚焼き玉子を焼く。昨日仕込んでおいたピクルスの味見をする。まだ少し浅いが、コレはコレで美味うまい。


 今朝はおにぎりを作るつもりなので、飯が炊けるまでの時間でストレッチと筋トレのメニューをこなす。昨夜の誓いの通り、反復横跳びもする。この世界に来た直後の、運動不足で緩んだ身体よりはマシになったが、それでも普通のおっさんから、多少鍛えたおっさんになった程度だ。


 さゆりさん曰く、耳と尻尾が生えてくると、身体能力は格段に上がるらしい。でも、俺にさゆりさんと同じ事が起きるとは限らないし、何よりケモノの人となってこの世界で生きてゆく覚悟も決まっていない。今は出来る事をやるしかない。


 飯が炊けたので、ざるに半分の量をあけ、木杓子で空気を入れる。粗熱が取れたら大きめの塩にぎりを作る。1人3個計算くらいか? 炊きたてのご飯で、少し固めに握った塩にぎり。美味うまいんだよなー。


 残りのご飯は、昼にチャーハンか雑炊にしよう。


 刻んだ葉野菜とゴマのスープを作ってみんなを起こす。ロレン店長以外誰も起きて来やしねぇ!


 昨日に続き、今日も日が昇ってからの出発となった。あの後夜番を務めたハザン隊長は、馬車が走りはじめると、俺とハルの寝袋に潜り込んで寝てしまった。護衛の人たちは寝袋を使わない(昨夜のような緊急時に、素早く起きられないからだ)ので、寝心地の良さに大喜びだった。


 今日は少し雲が多い。山の天気は変わりやすいというから、大きく崩れないと良いのだが。



 などと考えていた事がフラグとなってしまったのか、午後休憩を終えてしばらく走ると、空が怪しくなってきた。急に強い風が吹きはじめ、あっという間に大粒の雨が降ってきた。横なぐりの雨の中ポンチョを頭から被ったハザン隊長が、ヒョイっと馬車から飛び降りると、先頭の馬車のロレン店長の元へ走って行った。


 馬車より速く走ってるし! もう、あんたが馬車引けば良いのにな!


 ゴロゴロと雷が鳴り、まるでゲリラ豪雨のようだ。


 びしょ濡れになったポンチョを脱ぎながら、ハザン隊長が「びしょ濡れ犬に栗のイガ、だぜ!」と言いながら馬車に乗り込んでくる。


「弱り目に祟り目」的な表現だろうか? だが、正にびしょ濡れ犬なので、俺がハザン隊長を指差して「びしょ濡れ犬!」と言うと、


「ひでぇ目にあったって事だよ!」と言って笑った。良かったハルも笑っている。


 ハルは昨夜の一件から、やけに無口になってしまっていて、少し心配だったのだ。


「この先に洞窟があったはずだ。洞窟わかるか? 穴、岩壁の穴、だ。そこまでなんとか行って雨宿りだ」


「あめやもり」ハルが復唱する。


「やもりじゃねぇよ、雨宿り。止むまで待つ。うーん、待機、わかるか?」


「あまもどり」


「戻らねえって、あまやどり、だ」


「あまやどり」


「そうだ!」


 背中をパン! と叩かれて、ハルがびっくりした顔をする。


「上手く言えたな! 偉いぞハル!」


 ド直球の褒め言葉に、ハルが照れ臭そうに笑う。照れ臭そうだが、嬉しそうだ。


 この人もハルの様子を心配してくれていたのかも知れない。良い人だ。


 それから30分ほど走り、ようやく洞窟に着く。かなり広い洞窟で、馬車ごと入り早速湯を沸かす。石づくりのかまどがあるので、野営地のひとつなのだろう。


 少し熱めの湯を木桶にあけ、布を持って馬のところへ行く。びしょ濡れの体を拭いてから、温かい布でぬぐってやる。


「寒かったろう? 大変だったな」と、トプルさんの真似をして馬に声をかけると、そのトプルさんに、後ろから声をかけられた。


「馬の心がわかるのか?」と、俺の真似をして聞いてくる。


 俺が「いや、全然」と答えると、声を出して笑い、その後馬の世話を手伝ってくれた。


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