メーヤウ、カシュ
次の日の朝は、日が完全に登ってからの出発となった。いくつかの荷物を降ろし、水の樽を積み、食料品を補充する。卵を多目に買ってもらえたので、俺はホクホクだ。ロレン店長が「予算が‥‥」と、ぶつぶつ言っていたが、
「割らないうちに早めに使って下さい。この先は道が悪くなりますから」と言った。
「蜜が、笑う?」
「道です。笑うじゃなくて、悪い。良くない、ガタガタ道、わかりますか?」
俺が頷くと、「私はボットケーキというやつが、また食べたいです」とものすごく真面目な顔で言った。
ホットケーキだ。
「ヤー(了解の意)」と俺が言うと、けっこう上機嫌な様子で書類を持って村長の方へ歩いて行った。
鼻歌、うたってないか?
俺がロレン店長の意外な一面に、内心動揺している間に、出発の準備が整ったらしい。
「ほう! やー!!」
先頭の馬車の御者を務めるアンガーさんが、軽快な掛け声を上げ手綱を鳴らす。後続の馬車もそれに倣う。
馬車は順調にドルンゾ山を目指す。俺は卵と牛乳の事が気になって仕方ない。卵はたっぷりのおが屑で保護してあるし、牛乳はペットボトル水筒に入れ、水の樽の中だ。これはさゆりさんに教えてもらった保存法だ。卵は2、3日は悪くならないと思うが、道が悪い(蜜は笑わない)とやはり割れてしまう事が心配だ。牛乳は今日か明日には使ってしまいたい。暗所で水の中、どのくらい保つだろう。
俺がレパートリーの中から、メニューやアレンジをアレコレ考えていると、ハザン隊長がそわそわした様子で声をかけて来た。
「なぁ、アレ見せてくれよ。ビヨーンて伸びて飛ばすやつ」
俺は「大事、壊すな」と言って渡す。今日は念のために(豆ではない)組み立てを済ませ、腰ベルトの脇部分に差し込んでおいたのだ。
「すげえ伸びるのな! これ何で出来てんだ? 動物の腱か?」
ハザン隊長がゴムをビヨーンビヨーンとしながら聞いた。すげぇ楽しそうだな。
「木の汁」と答えると、
「樹液か? 固めるとこんな風になるのがあるのか?」
と、聞いてくる。俺は、
「作り方、知らない」
と惚けておいた。実際俺1人ではまだ、上手く作れない。
「どーやって使うんだ? 打たせてくれよ」
と言って悪そうに笑う。この笑顔は知っている。じーさんがチートな道具を思い付いた時に浮かべるやつだ。
俺は荷袋から豆を数粒取り出して、馬車の後方へと打ち出して見せた。この馬車は最後尾だ。
「けっこうな威力だな! 打ち出すモノで色々出来そうだよな。鉄の破片なんかに毒を仕込んでも良いな。弓矢より飛ばすもん選ばないのはすげぇ利点になる。大きさとか、この伸びるやつ変えられんのか? これ、二本とか三本にしたら威力上がるんじゃねぇか? それと‥‥」
うわー、すげぇ勢いで喋り出しやがった。何言ってるか半分もわかんねぇよ!
俺とハルが若干引いていると、やっと我に帰ったらしい。
「すまん、俺、武器の話しになると止まらなくなっちまって」と、バツの悪そうに言った。
うむ。武器オタか‥‥。




