初野営 前編
日が傾きかけた頃、街道沿いの野営地へ到着した。全員が馬車から降りてくる。俺とハルは隣接した水場へと馬を連れて行き、水を飲ませる。硬く絞った布で体を拭いてやると、ブルルッと気持ち良さそうに頭を振ったあと、まあまあの手際ね、とでも言うように、フンーッと鼻を鳴らされた。
俺の請け負った仕事は、野営時の馬の世話と食事の用意だ。
この地方の水場はどこも地下水が湧き出した泉なので、水はとても綺麗だし冷たい。顔を洗い、ペットボトル水筒に水を補充する。馬を繋いで馬車の方に戻ると、みんなひと休みを終えて野営の準備を始めていた。
ポールを立て、ロープを巡らせ、布のテントが手際よく張られていく。ハルは初キャンプ、初テントだ。手伝いたそうにハザン隊長の周りをウロウロとし、危ないから向こうへ行ってろ、と追い払われたようだ。
馬車から鍋や調理器具の入った箱を出し、食材を選ぶ。ちょっとしゅんとして走ってきたハルの頭をポンポンしながら聞く。
「晩メシ、何にすっか? ハル何食べたい?」
ふと、こんな会話をするのも久しぶりだな、と思う。この世界に来てからは、不動のシェフさゆりさんが、常に台所に君臨していたからな。
俺はけっこう料理が好きだし、得意だ。嫁が看護師だった事もあり、台所仕事は日常だった。
「キャンプといえばカレーだよね!」
ハル、気持ちはわかるが自重しようか。この世界にカレーはまだ早い。さゆりさんは普通に作ってくれたけどな。
悪くなりやすい物から使う事にする。レタスとトマトと腸詰めのスープ、アスパラとポテトのサラダ、ゴマを練りこんだ無発酵の薄いパン。こんなもんかな?
薄いパンはさゆりさん直伝で、ゴマやナッツ類、潰した豆やトマトなんかを練り込んでも美味い。もっと薄くしてパリパリに焼くと、おやつにもなる。
大きな寸胴のような鍋と野菜を持って水場へと向かう。野菜を洗い鍋に水を入れる。
石を組んだかまどに火を入れ、まずはやかんでお湯を沸かし、隣のかまどで、ジャガイモとアスパラを茹でる。じゃがいもは日本のものより赤みが強く、アスパラはホロリと苦い。トマトとジャガイモはサラサスーン地方の特産品なので、味も形も大きさも、とてもたくさん種類がある。持って来たのは日持ちがして形の崩れにくい、硬いものが多い。
お湯が沸いたのでやかんに茶葉を入れ、ハルに配ってもらう。
大鍋にザクザク切った材料を入れ煮ている間に、パンを作る。
サラダはハルに頼む。ごま油と塩を絡めて、刻んだ大葉をかけるだけだ。大葉は水場で摘んできた。
小麦粉、塩、バター、水をボールに入れ、捏ねる。手に付かなくなるまで捏ねて、ゴマをたっぷりと入れる。軽く混ぜ合わせ、適当にちぎり、手に粉をつけてなるべく平らに薄く伸ばす。あとはフライパンにバター溶かして焼くだけだ。
夕焼けのはじまった空に、煮炊きの煙が高く登っていく。バター焦げる匂いと、スープの腸詰めの匂いが辺り漂う。こんなに匂いがして、獣をおびき寄せてしまったりしないのだろうか?
と、思っていたら、獣の人が匂いに釣られてやってきた。
「美味そうな匂いで、もう我慢できん」と、ハザン隊長が腹に手をあてて言った。
「できた、みんな並べ!」と大きな声で言うと、全員が皿を持ってやってきた。
「もっとくれ」だの「トマト多めで」だの、注文に応えながら配膳していたら、ハルが「給食当番みたいだね」と言って笑った。
お代わりの連中も捌き、ようやく俺とハルも皿を手に焚火の側に座る。
「おとーさんのごはん、久しぶりだね。おいしそう! おとーさんって、もこ◯ちみたいだよね!」
おう! もこ◯ちさんは、お父さんの心の師匠だからな!




