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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第2章 キャラバンのお食事係と旅日記
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旅のはじまり

 この世界の人たちは、かかとの厚い靴をあまり履かないようだ。ケモノの人である彼らは、見ていると爪先立ちになっている事が驚くほど多い。靴底は爪先と踵部分が分かれているのが主流みたいだ。


 護衛隊長は俺の靴をしげしげと眺め、


「変わってるけど、すげえカッコイイな! その職人、俺にも紹介してくれよ」


 と言った。‥‥ような気がする。褒めてくれてるってのはきっと間違ってない。


「職人、違う。でも了解」


 ハルも俺も、じーさんが褒められた事が嬉しくて、顔を見合わせてニヤニヤしてしまう。俺たちじーさん大好きだもんな! ハル!


 護衛隊長は名前を、ハザンさんと言い、シュメリルール生まれだそうだ。


「訳ありって聞いてるけど、ラーザに何しに行くんだ? こんなチビ連れてさ。『訳あり』わかんねーか‥‥。『深い、事情』だな」


「家出して、行方不明の妻を探しています」


 これは何度も練習した言葉なので、自信がある。なのでついドヤ顔で言ってしまった。


「嫁さんに逃げられたって事か?なんでそんな事得意そうに言うんだよ。しかも、その言葉だけすげぇ発音良いし!」


 ハザン隊長はプッと吹き出すと、大きな声で笑った。


 俺も笑いながら、荷物入れからスケッチブックを取り出す。急遽きゅうきょ俺たちとお揃いの帽子を付け足した嫁の似顔絵を探し、見せる。


「これ嫁さんか?へぇー! 美人じゃねーか! これ、ヒロトが描いたのか?」


「俺、絵描き。見た事ないか? この女」


「うーん。俺ラーザの街の女は、酒場の女とターナリットの女しか知らねぇからなぁー。すまんな」


「ターナリット?」知らない単語だったので、聞いてみた。店の名前か?


 ハザン隊長は、ハルをチラ見すると、俺の帽子の耳に口を寄せて言った。


「ターナリット、金で女を抱く店の事だよ。良い女がいるぞ」


 うむ。なかなかの情報だ。俺は大きく頷いて親指を立てた。


 その後もハザン隊長は、ラーザの特産品の話しとか、この旅の難所の話しとか、この季節に狩れる角ウサギの肉が美味うまいとか、山越えの時の天気が心配だとか、そんな事を大きな声で話した。


 俺がわからない言葉は、簡単な単語に言い換えてくれるし、聞き取れない時は繰り返しゆっくり発音してくれた。そしてしばらくすると、頭の帽子を顔に被せて座ったまま寝てしまい、ガーガーといびきをかきはじめた。見かけ通りの豪快な人だ。


 ハルもさっきまで、さゆりさんの単語帳を見ながら、俺たちの話しを聞いていたが、今は荷物にもたれて寝ている。


 俺はスケッチブックを持って、後ろに流れてゆく景色を眺める。眼前には、相変わらずの荒野が広がり、馬車が通ってきた街道が大きく弧を描いて続いている。


 俺は本屋のご主人にもらった木炭を取り出し、馬車の幌でアーチ型に切り取られたような風景を描きはじめた。



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