出発だ!
やっとシュメリルール出発です!
翌朝、見送りに来てくれると言う、リュートと嫁さんを強固に断り、家の前で別れる。なるべく湿っぽくならないように、「すぐに帰って来るから」と、軽く手を振った。
荷物を担いで帽子を被り、徒歩で商会へと向かう。約束の時間よりかなり早く着いてしまった。
商会の前は、倉庫から荷物を運ぶ人、馬車にそれを積む込む人、書類を持って走る人と、活気に満ちた光景が広がっていた。
猫耳店長を見つけて声をかける。ハルを紹介し、「お世話になります」と挨拶する。猫耳店長はがっしりとした背の高いの男を呼び、俺とハルを紹介してくれた。浅黒い肌をしたその男は、護衛隊長なのだそうだ。
護衛隊長は、「美味いメシを食わせてくれよ」と、案外人懐こく笑って言った。俺は「大丈夫、料理、得意」と言い、それから「よろしくお願い、する」と頭を下げた。思いっきり片言だな! でも通じたみたいだから良しとしよう!
それから何人かの人に紹介され、やがて全員が乗り込むと馬車が走り出す。馬車道を通り街を抜ける。馬車は3台、俺とハルは1番後ろの馬車に乗った。
街道へと出ると、ハルは幌から顔を出し、流れる景色を見送った。馬車は思ったより速く進む。そして揺れも意外なほど少なく、ガタガタという音もそれほどではなかった。中世ヨーロッパの幌馬車での旅は、乗り心地が悪く、『地獄の責め苦』などという文章を読んだ事があったので、内心戦々恐々としていたのだ。じーさんの様なチート級の職人が、良い仕事をしているのかも知れない。
そもそもこの世界の人は、みんな足が速く体力もある。そんな身体能力が高い人達が、敢えて乗り物を使うのだから、自分たちで走るより、速くて楽でなかったら乗り物など発達しないのだろう。
天気は上々! 風も吹いている。馬車の乗り心地も悪くない。なかなかに上等な旅立ちとなった。
もっとも、荒野の天気はいつもこんな感じなのだが。
「馬車の旅は初めてか?」
護衛隊長が話しかけてきた。俺は「逃げた嫁を探して旅をしている異国の画家」という設定なので、「違う」と首を振る。「ふーん」と、じろじろ俺とハルを見る。
「その割に、靴も帽子も新品だし、随分ボウズがはしゃいでんなぁ」
訝しげに早口で言う。俺は聞き取れなかったので、
「俺、故郷、遠く。とても。言葉、未熟」
単語を並べてみる。通じるか?
「ああ! 言葉が変だと思ってたら、異国人なのか」
と、ゆっくり喋ってくれるようになった。
「それ、変わった靴だな? どこで買った?」
ハルがパッと顔を輝かせて言う。
「じーちゃんが作った!」
「知り合いじーさん。お世話になります」
「は? 世話になってるじーさんって事か?」
「そう、それ!」
ちょっと違ったらしい。




