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夜の帳は降りてくる

 ハルは少し高くなった岩場に腰を下ろし、夕日が地平線に沈み、空が徐々に紫色を深くしてゆく様をいつまでも眺めていた。ハルのそんな様子は、なんだか微笑ほほえましくて、焚火たきびの火を起こしながらその背中を見つめていた。


「ハル、少し肌寒くなってきたぞ」


 俺はリュックから昼の残りのサンドイッチを出しながら、ハルを呼んだ。


 ハナはすでにポテトサラダをハムハムしている。真夏の猛暑もうしょだった東京と違い、荒野はカラッとしていて過ごしやすい。日本での初秋くらいの陽気だろうか。食べ物が悪くならないで助かった。


 少しパサパサになってしまったサンドイッチを、ペットボトルのお茶と一緒に口に含む。


 残りの食料

 袋菓子 2袋

 ゼリー飲料 2つ

 菓子パン 3つ

 お茶のペットボトルが1本

 オレンジジュース ペットボトルに半分

 以上!!


 明日1日持つかどうか、といった心細さだ。子供たちにひもじい思いなどさせたくない。


遭難そうなん』とか『行き倒れ』とか、おだやかじゃない単語が頭に浮かぶ。



「おかーさんひとりで、だいじょうぶかなぁ。すごくこわがりだから、泣いてないかな」


 ハルが焚火の火を見ながら言った。


 ハルの真似をして、あーたん、こわがり! とハナが言った。


 トロリと流れるように、暗闇が濃くなってゆく。しばらく星空を見上げいたハルも、昼間の疲れがあるのかウトウトし始める。ハナは俺の膝の上でプープーと鼻を鳴らしながら寝ている。




 俺たちに起きた理解不能な現象。瞬間的に離れた場所に移動してしまったのだろうか。地形的には南米などの乾燥地帯を連想させる。


 そして、細く長く続く道以外に、人の住む気配が一切見当たらない。かれこれ6時間くらいは歩いたが、建物の影も自動車も、看板も何一つ見かけない。空き缶のひとつも落ちていないのだ。日が暮れても、灯りも一切見えない。


 広いアメリカや中国などでは、都市部から離れたらそういうものなのだろうか? 俺は外国はグアムと韓国しか行った事がないから、よくわからなかった。


 俺たちに、一体何が起きたのだろう。




 犬の遠吠とおぼえが、何度も遠く低く響く。この夜を無事に越えられるのだろうか。武器になりそうなものは、バトミントンのラケットのみ。俺は武器を振るった経験など、一度もない。中学ではバスケ部、高校では軽音楽部だ。ハルの頭を空いている方の膝に置き、リュックからバトミントンのラケットを出して握る。


 じっとりと手に汗が滲むのを感じながら、覚悟を決める。俺が、なにがあっても子供たちを守る。そしてナナミを迎えに行く。絶対に。


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