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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第1章 スローライフと似顔絵屋さん
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はじめの一歩

 空が白みはじめる前に、そっと屋根裏部屋から降りる。庭に出ると、昨夜は珍しく霧が出たのだろう、空気は雨上がりに似た匂いがする。岩壁の縄ばしごを登り、壁の上に立つ。オイルライターでタバコに火を点けて、深く肺に煙を入れる。クラクラとする目眩めまいと、ニコチンが身体に染み渡る不健康な快感にひとしきり身をゆだねる。


 ハナが目を覚ます前に、さゆりさんの家を出て、今日はリュートの家に泊めてもらって、明日の朝の鐘の頃、商会へ行く約束になっている。厳密に言えば、今日は旅立ちの前日なのだが、俺の中では今日が旅立ちの朝だ。


 俺がいなくとも、ハナが泣かずに笑って暮らしてくれると良い。そう思う反面、俺が帰って来ない事で、ハナが泣き叫んでくれる事を望んでいる。我ながら病んだ父親だ。


 庭へと降り、軽くストレッチをする。井戸で顔を洗い、歯を磨く。


 家へと戻ると、ちょうどハルが屋根裏部屋から降りてくる。口に人差し指を当ててから、小さな声でおはよう、と挨拶を交わす。


 荷物の点検をしていると、さゆりさんとじーさんが起きてくる。またもや小さな声で挨拶を交わす。


 顔を洗ってきたハルから、歯ブラシを受け取り荷物の中に入れる。さゆりさんが朝メシの弁当を渡してくれる。いつの間に作ったのだろう、まだ温かい。


 最後にハナの顔を見ようかと思い、やめておく。出かけられなくなりそうだ。


 ポンチョを羽織り、ハルの装備を確認してから、荷物を背負う。ハルの荷物を持ち、連れ立って庭へ出る。じーさんが馬を引いてきてくれたので、荷物を積み込み手綱たづなを受け取る。


 壁のギミックがゴゴゴー、とびっくりする程大きな音を立てて開く。たぶん全員が同じ事を考えている。「ハナが起きちゃったらどうしよう」だ。 4人で同じ方向を見て咄嗟に顔を見合わせて、なんだか全員でうなずき合う。同じ心配をして、まるで、家族みたいに。


 さゆりさんが家の方を気にしつつ、膝を折りハルを抱きしめる。


「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「帰って来い」じーさんがいつも通りの口調で言う。


「行ってきます。ハナを、よろしくお願いします」と頭を下げる。


 ハルを先に馬に乗せ、俺がその後ろにまたがる。


「おじーちゃん、おばーちゃん、行ってきまあす!」ハルは手を振り、俺はもう一度頭を下げる。


 昇り始めた朝日を背に、俺とハルは、はじめの一歩を、こんな感じで踏み出した。


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