旅立ち準備 前編
次の日から旅の準備を進める。
俺たちがこの世界の人間でない事は、極力隠す方向で進める事になった。
ウサギや熊なら尻尾が小さく、服の中にしまっている人がほとんどなので、さゆりさんが、そのへんの耳の形をカバーした帽子を作ってくれる事になった。
ウサギ耳の帽子をかぶるとか、なんの罰ゲームだろう。でも熊の人は総じて体格が良いらしい。シュメリルールの街で見かけた熊の人は、みんな背も高く、プロレスラーのようだった。俺が熊を名乗るとか、確かに役不足かも知れない。
それにクマ耳もウサギ耳も、恥ずかしい度で言ったらそう変わらない。
耳の小さめなウサギでお願いします。
ペットボトルに革紐を巻いて、水筒に偽装する。ペットボトルの軽さと頑丈さはやはり、この世界にはないものだ。
蓋にも革紐を巻き、失くさないよう本体と縄で繋げる。
じーさん監修の元、腰ベルトやケース、ベルトに通す小物入れを作る。ダメ出しもあるが、なるべく自分で作る。
俺は腰ベルトを二本使い、スリングケースと玉入れ、リュートにもらったナイフを左右に下げる事にした。西部劇の2丁拳銃のガンマンみたいで、めっちゃカッコイイ!カッコ良すぎて気恥ずかしいほどだ。
ハルの腰ベルト、スリングケース、玉入れも作る。
じーさんの教えてくれる革細工は、どれも無骨だが実用的で頑丈だ。それがたまらなくカッコイイ。
嫁の手作りサンドイッチが入っていたタッパーを、一回り大きな木箱の中にすっぽりと収める。ポケ◯ンの絵のついたタッパーは、やはり目立ってしまうだろう。
この中には濡れたら困る物や、オーバーテクノロジー過ぎる物、大切な物を入れる。スマホや、スマホの充電アダプター、小型ライト、ツールナイフ、東京の家の鍵、サイフに免許証、電車の定期入れ等だ。
ハルが持っていく、リュートの古着を選んでいたさゆりさんが、
「ヒロトさん、コレも持って行ったらどーかしら」と渡してくれたのは、単語帳だった。てか、単語帳ですよね?
「そう。私がこの世界の言葉を覚えるのに使っていたのよ」
パラパラと捲ると、表に日本語での意味、裏に片仮名で異世界語の発音、その下にこの世界の文字が書いてある。『動詞』と『名詞』と『形容詞』の3冊があり、名詞には簡単なイラスト付き。
「これ、凄いですよさゆりさん。もっと早く見せて欲しかったです」
「ごめんなさいね。30年も前の事よ?忘れちゃってたの」ほほほ、と誤魔化すように笑った。
添えられたイラストは、なんだか見た事がある気がして、考えたらハナの絵に似ている。さゆりさん、画伯ですか。
 




