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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第1章 スローライフと似顔絵屋さん
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続・シュメリルールにて

スリングショットは、命中させるのがひどく難しいと聞きましたが、検索したら、そうでもない、結構簡単に当たるよ、というコメントもあったので、その線で進めさせてもらいました。

  次の日の午後、俺は改めてネコ耳店長を訪ね、正式にラーザまでの商隊への同行を願い出た。8歳の子供も同行させてもらう事を告げ、費用の支払いを済ませる。


 ネコ耳店長から、商会側で用意する物、俺が自分で用意しなければならない物、道中の俺の仕事などの説明が受ける。こちらが恐縮するほど簡単な単語で、丁寧に説明してくれた。俺が聞き取れなかった時は、ゆっくり発音してくれた。思っていたより、ずっと優しい人だ。


 最後にもう1度、幼児の同行をお願いしてみたが、困ったように首を振られた。これはもう、ハナを連れて行くのは諦めた方が良いかもしれない。


 俺は、「よろしくお願いします」と頭を下げ、商会を後にする。


 その足で本屋に向かい、しばらく似顔絵屋を休業する事をご主人に告げる。1ヶ月ほど旅に出る事を話すと、


「元気で帰って来い」と言って、餞別にデッサン用の木炭を10本ほど袋に入れて渡してくれた。


「旅先でも、良い絵を描いて、帰って来たら見せてくれ」と背中を強く叩かれた。


 この世界の人が良い人ばかりなのだろうか。それとも俺が特別運が良くて、良い人ばかりに会うのだろうか。


 もしかして、コレが俺のチートなのかも知れないと、半ば本気で考えた。




 旅に必要な物を買い揃える。大きくて頑丈な荷袋、俺とハルが入れるくらい大きな寝袋。鍋や包丁などの調理器具や食材は商会で用意してくれる。テントも必要ないらしい。


 俺のシャツや、ズボンを何枚か買う。今まではリュートやじーさんの服を借りていたのだ。下着だけはさゆりさんが、新しいものを作ってくれた。この際、俺とハル、ハナの下着をまとめて買っておこう。さゆりさんに下着を作ってもらうのは、どうにも気恥ずかしい。


 この世界の硬貨は、穴が空いている。500円玉程度の大きさで四角い穴だ。この辺りの人たちはその穴にひもを通し腰に下げて持ち歩く。紐は玉結びになっていて、1番下から『ピッ』と引き抜いて使う。江戸時代とかそんな感じじゃなかったか?


 この動作がなんともカッコイイのだ。リュートが値段交渉とかしながら、腰に手をやりピッと引き抜く動作を真似てみたが、玉結びが甘くバラバラと硬貨が地面に落ちた。1人で良かったとつくづく思った。


 ハルの服は、リュートの子供時代の状態の良い古着たくさんあるので買わなくて大丈夫だろう。タオルや石鹸を買う。歯ブラシはじーさんが作ってくれたやつを持って行こう。


 あとは武器、だろうか。あの後スリングは恐るべき進化を遂げた。カドゥーンじーさんとリュートの合わせ技だ。あの親子はヤバイ。そげキ◯グ並みの巨大スリングまで作りあげやがった。あんなの旅に持って行ける訳あるか!


 手頃なサイズのモノもかなり本格的だ。本体はリュートが鍛治仕事の合間に作ってくれた。撃つ時にブレないように腕に固定するアームカバーも金属製。持ち手部分は革紐で巻いてあり、はっきり言ってカッコイイ!分解すればコンパクトにまとまるのも嬉しい。大小様々な金属の玉もたくさん作ってくれた。ハル用の小型で軽いものもある。


 俺のスリングの腕前は、実用レベルまであと少し、というところだろうか。飛んでいる鳥にはまだ当たらないが、10メートル先の的に7割くらいは当てられるようになった。


 調子に乗ってゴーグル作りも依頼したら、めっちゃカッコイイのを作ってくれた。じーさんの細工物レベルはMAXに違いない。


 買い物を終えて、リュートの仕事場へと向かう。挨拶をしてサラサスーンへの帰路に着く予定だ。


 実は今回、シュメリルールの街まで、俺はひとりで来た。スリングもあるし、乗馬にも慣れた。さゆりさんとじーさんには随分心配されたし、自分でも不安だったが、旅に出る事を踏まえて思い切って決めた事だ。気分は、はじめてのお使いだ。


 特に危険な目にも合わずに、なんとか辿り着いた。帰りもそうである事を祈る。


 リュートの工房のドアを開け、声をかける。革製の大きなエプロンをかけたリュートが顔を出す。


「契約して来た。買い物もした。帰る、サラサスーン」と、敢えて異世界語で話す。


「ヒロト、立派になって!」と、泣き真似をする。コイツ日本語での小芝居までマスターしてやがる。


 ひとしきりじゃれ合い、俺は真面目に日本語で話す。


「リュート、この1ヶ月本当に世話になった。帰って来たらまたよろしく頼む」と言って、紐に通した10枚ほどの金貨を渡す。


 受け取れない、と言うリュートの手に無理やり握らせる。子供に小遣いを渡す、大阪のオバチャンのようになってるな、俺。


 リュートは少し困ったように笑い、作業場へ行ってしまう。すぐに何かを持って戻って来る。


「これ、餞別。持って行って」と渡されたのは、リュートがいつも腰に刺しているのより、ひと回り小振りのナイフだ。


「こんなの貰ったら、渡した金が意味ないだろ。それに俺は刃物では、たぶん戦えない」と言うと、


「これは俺の自信作。ヒロトに持っていて欲しい」と言って照れ臭そうに笑った。


 コイツはこういう奴だった。こんな風に言われたら、受け取らない訳にはいかないじゃないか。


「ありがとう。大切にする」と俺が言うと、


「絶対に、無事に戻って」と、ハグして来やがった。外人かよ!


 いや、異世界人だった。


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