続・大岩の家での生活
シュメリルールの街へ日常的に出かけるようになって、わかった事がある。
さゆりさんの、家族内地球知識チートだ。醤油と味噌以外にもけっこうあった。
生クリームやチーズケーキなどのお菓子類は自重なく作っているし、服や靴底にはゴムが使われている。蚊取り線香、洗濯バサミ付きの物干し、ピーラーや泡立て器。畑では大きな蛇の皮を使ったホースで、水撒きをする。なんとシャワー付きだ。
ひとり用のドラム缶風呂もある。石鹸は流通しているが、さゆりさんの手作り石鹸は、市販のものより香りも泡立ちも良いのだそうだ。
数えあげればけっこうな数になる。しかもじーさんが手先が器用なので、クオリティも高い。
荒野の一軒家、しかも大岩の中という立地条件は、人の目を気にする必要はないのだろう。2人の性格なのか、特に秘密にしている訳ではないらしいが、一切流通していない。モノによっては大儲け出来そうなのにな。リュートは持ち出しているし、まだ会った事のないリュートの姉さんも嫁に行く時色々持って行ったらしいので、今後は流通して行くのかも知れない。
ある日思いついて、俺は武器をひとつ作ってみる事にした。『スリングショット』、玩具としての名前はパチンコ。ウソ◯プの使ってるアレだ。ゴムがあるなら作れるんですよ。俺は設計図を書き、じーさんと相談する。材料や部品、打ち出す玉について話し合う。ヤベェ、めっちゃ楽しい。
まずは試作品としてシンプルなモノを作る。本体は木、ゴムに皮を固定して、この部分で石や玉をを掴んで打ち出す。
庭に出て試し打ちをする。思ったよりずっと簡単だ。しかもけっこう飛距離が出る。ハルにもすぐに出来る。じーさんは意外な威力に目を見開いている。そしてニヤリと笑う。なんか企んでるような笑顔だが、楽しそうなので良しとしよう。大きさや形状、素材なんかを改良すれば、殺傷能力も上がるかも知れないな。
ゴムを二重にしたり、太いゴムを使ったり、試行錯誤を重ねる。ゴムは材料の比率を変えれば、もっと強い物も作れるらしい。明日はゴムの作り方も教えてもらおう。
殺傷能力か‥‥。自衛の為、狩りの為に必要だ。牙や爪を持たない俺たち家族には、なおさら必要なモノなのだろう。この世界の人たちは、いざとなれば獣の姿となり、その爪と牙で戦うらしい。
身体強化についても、まだ未知の領域だ。リュートやさゆりさんに説明してもらい、練習してみたのだが。何というか、中学生の頃、こっそり呪文を唱えてみたり、体内の魔力を動かす練習、とかやってみた時のような気持ちになるのだ。要するに「小っ恥ずかしくてやってられっか!」とジタバタしたくなる。
ハルは暇さえあれば、気の訓練(瞑想しているように見える)を続けている。カメ ◯ハメ波が出るようになるまで、頑張ると言っていた。
「でさぁ、ハルくん。実際どーなの? 気とか、感じちゃったりするの?」
と、どこかのチャラ男のように聞いてみた事がある。
「ゆっくり深呼吸して、手のひらとか、おへそとか、おでことかに、集中すると、ぐーんって感じがする。ちょっとポカポカするんだよ」
ほほう、なるほど。で、ぐーんってどんな感じ?
ハルが、本当にカメハ◯波を出してしまったら、俺はどうすれば良いのだろう。仙人にでもなるしかないか?
次の日から、俺の毎朝の日課に瞑想が加わった事は言うまでもない。そしてその一週間後、その日課はいつのまにかなくなっていた。
俺は仙人にならなくて良い気がする。