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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第1章 スローライフと似顔絵屋さん
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帰路

 その夜はリュートの家に泊めてもらい、次の日はひとりで広場に向かう。客とのやりとりは、必要最低限の『椅子に座って下さい』とか『料金は銀貨1枚です』とか『ありがとう』とか、どうしようもない場合の為に『私はこの国の言葉が話せません』なんかを、リュートに教えてもらった。念の為、スケッチブックに文字で書いてもらった物も用意した。


 リュートは今日もつき合うと言ってくれたが、俺が、俺の嫁を迎えに行く為にやる事だ。いつまでも人の手を借りてはいられない。


 と、カッコイイ事を言ってはみたが、良く考えたらこの街とさゆりさんの家の往復の護衛は、リュートが引き受けてくれているのだ。


 色々台無しだ。


 落ち込んでばかりいても仕方ないので、気をとりなおして、似顔絵屋さんの開店準備をする。金稼いでリュートに護衛料払おう。


 しかし、さゆりさん一家への恩が半端ねえな。生活の衣食住全てと、この世界で生きてゆくのに必要な情報と安全、リュートには命すら守ってもらった。腎臓じんぞうのひとつも差し出せと言われても、俺は喜んで差し出すだろう。


 客待ちの間、広場の風景をスケッチする。弦楽器を演奏する三人組の大道芸人や、広場の隣に建つ風車小屋、道端で様々な大きや形の籠を売る老人。絵描き魂はくすぐられまくりだ。


 そうこうしていると、今日1組目の客が来たようだ。俺は、スケッチブックの『似顔絵を描きますか?』のページを開いて見せながら、この世界の言葉をを口にする。2人の子供を連れた男性が頷いて、子供たちを椅子に座らせる。順調な滑り出しだ。


 先が黒く、ふさふさと毛におおわれた大きな耳と、太くてがっしりとした尻尾はカンガルーを思わせる。男の子は緊張して固まっていて、女の子は尻尾と足をゆーらゆーらと揺らし好奇心のにじんだ目をしている。


 俺は父親らしき男の人に軽く頭を下げ、似顔絵を描き始める。子どもたちの集中力が途切れてくる。俺は片手を頭の横でグーパーしながら『コッチ見て』と言い、視線を求める。2人はキョトンととして、その後ニパッと笑顔になった。


 うむ。良い笑顔だ。


 完成品を2人に見せ、父親らしき男の人に渡す。『銀貨1枚になります』と書いてあるスケッチブックを見せる。銀貨を受け取り、『ありがとう』と礼を言う。カンガルー父さんは、俺のつたない言葉に思うものがあったのだろう。ペラペラーッと何か話しかけてきたが、『私はこの国の言葉が話せません』を見せると、俺の肩をポンポンと叩き『ありがとう』と言うと子供たちの手を引いて帰って行った。


 親子連れの後ろ姿を、やり遂げた感に軽く酔いしれながら見送っていると、声をかけられる。次のお客さんだ。


 午前中で六組の客をさばき、異世界語を口にする気恥ずかしさが薄れてきた頃、リュートが馬を連れてやって来た。


 ニコニコと近づいて来て「ヒロト、すごい、りっぱ、サイコー!」


 めっちゃめられた。少し離れて様子を見ていたらしい。


 俺は照れ臭くなり、リュートの肩口目指してグーパンを繰り出すが、軽く掌で受け止められる。流石の反射神経だ。


 店じまいをしてリュートと帰路につく。道すがら、屋台で肉と野菜を薄いパンで巻いたものを買い、食べながら歩く。ええ! 俺が払いましたとも! もう文無しヒロトではないのだ。自分の金があるってホント素晴らしい。


 サラサスーンまで馬で2時間くらい。この世界の馬は地球の馬よりかなり大きい。横幅もあり、成人男性を2人乗せ、荷物満載まんさいでも平気で走る。北海道の道産子どさんこっぽいな。穏やかで優しい動物だと言う。


 帰り道は比較的平和だった。立派な角を持つ水牛に似た小型獣の群れが、水場に向けて移動するのを見送ったり、大鷲おおわしに似た大型の猛禽類もうきんるいがネズミのような小動物を狩る様子を眺めたりした。どちらも迫力満点だ。


 ちなみに、小型水牛もどきの肉はとても美味くて、特大の大鷲もどきは人間の赤ん坊くらいなら捕食対象なので、注意が必要なのだそうだ。


 サラサスーンと呼ばれている一帯は、乾燥地帯で雨が少ないが、地下水脈が豊富で比較的簡単に井戸が掘れる。ところどころに水場があるので、野生動物は少なくないらしい。


 その割に転移当日に、じーさんに保護されるまでの間、俺たちは全く動物を見かけていない。蟻や蝶、小さな羽虫などは見たような気がするが。


 リュートに聞いてみると、少し困ったように苦笑する。さゆりさんの家からしばらく行った辺りから先は「み地」のように扱われているらしく、動物も鳥も何故か近づかない。神聖な場所とも、呪われた土地とも呼ばれているのだとか。もちろん住んでいる人もなく、旅人も避けて通るらしい。なぜ道が通っているのか、リュートも不思議を思っていたのだと言う。ちなみに、そんな場所に住んでいるリュート達一家は、変わり者扱いされているらしい。


 さて、そろそろさゆりさんの家がある大岩が見えてきたな。俺は大仕事をやり遂げたような、心地よい疲労感を感じながら、茜色に染まりはじめる谷を、リュートとともに馬に揺られて進んで行った。


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