情報収集
まずは図書館へ向かう。この街の図書館は、大変な蔵書家だった大きな商店のご隠居が建てたのだそうだ。今は街の議会が管理しており、貸し出しはしていなくて閲覧のみ。書き写すのはオッケーだそうだ。
俺は文無しなので、受付でリュートに料金を払ってもらう。小学校の教室二つ分くらいの広さだが、背の高い本棚が列をなして並び、窓際に閲覧用のテーブルがある。
地図は受付で別料金を払い、身分証の提示をしないと閲覧できないようだ。俺を先にテーブルの方へ促し、リュートが地図を数冊借りてきてくれた。受付からなるべく遠くの席に座り、2人で地図を覗き込む。スマホを取り出し、シャッター音が聞こえないようにスピーカー部分を指で押さえる。
街道などの道や、街や村の名前が見て取れる地図を中心に、片っ端から撮っていく。ちなみにこの街は「シュメリルール」という名前らしい。
あらかた必要そうな地図をカメラに収め、図鑑コーナーへ向かう。植物図鑑と動物図鑑をリュートに選んでもらう。自分の役立たずっぷりと、リュートの有能ぶりに凹むが、ぐっと堪える。ページを開くと、けっこう写実的な絵と説明文が並ぶ。今は読めないがそのうち役に立つだろうと思い、これらもカメラに収める。
本はどれも手書きだったが、最近画期的な手法として活版印刷が始まったらしい。さゆりさんは知識チートや内政無双に手は出さなかったのだろう。
後ろめたい作業に、なんとなく肩が凝った。肩と首を回しながら、図書館を後にする。
続いて教会を目指す。
この世界の宗教はギリシャ神話に似ている、ような気がする。太陽神がトップで、月や星や水や風など様々な神様がいるらしい。教会はそれぞれの神様に感謝する場所であり、病院や養護施設としての一面もあるそうだ。看護師の嫁が教会に駆け込んだ事は、渡りに船と言えるだろう。
教会の門をくぐる。宗教の気配というのは、どこの国でも似通っていると思っていたが、この世界でも同様なのだと感じる。
神さまたちの像が並ぶ通路を渡り、礼拝堂っぽい場所の入り口を抜ける。教会の関係者と思われる、ネコ耳の女の人にリュートが話しかける。俺ホント役立たず。全然いらない子だ。
しばらくすると、女の人がその場を離れ、タレ耳のじーさんを連れてきた。二言三言、言葉をかわす。頭を下げるリュートに、俺も慌てて頭を下げる。
この世界のこういう所作は驚くほど日本と同じだ。頭を下げて感謝、頷くと肯定、フルフルすると否定。首を傾げると疑問、呼ぶ時はおいでおいでだ。両手を合わせて眉の間に当てるとゴメンだと聞いた時は、過去に日本人の転移者の存在を疑った。言葉の話せない俺にしてみると、ものすごく助かるんだけどな。
「ヒロト、海の教会、教えてもらった。あとで、さがす。スポポの地図」
リュート、スマホの事か?
街の中心にある大きな広場へ行き、適当な木陰で腰を下ろす。大道芸人の楽器の演奏を聞きながら、さゆりさんが昼メシにと持たせてくれたサンドイッチを食べる。
「リュート、助かった。本当にありがとう」
と改めてお礼を言うと、リュートは
「役に立つ、うれしい」
と、照れたように鼻を指で擦った。