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おとうさんと一緒〜子連れ異世界旅日記《嫁探し編》〜  作者: はなまる
第1章 スローライフと似顔絵屋さん
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到着

 その後は街に着くまで、襲われる事はなかった。なかったが、10メートルくらい先から毒があるという巨大トカゲに威嚇いかくされたり、小動物を誘い込んで溶かすという、禍々(まがまが)しい食虫植物のようなサボテンが歩いていたりと、あまりおだやかとは言えない道行みちゆきとなった。


 俺は考えが甘かったのだろう。異世界舐めてました。転移初日は、日が暮れるまで特に危険生物に出会わなかった。だからちょっと危険もあるかも、くらいの認識しかなかったのだ。


 こんな恐ろしい世界で、戦闘能力のない俺が、幼い子供を2人も連れて旅などできるのだろうか。例えば銃などの強力な武器があったとしても、危険に対処できるとはとても思えない。途方に暮れてしまいそうだ。


 そうこうしているうちに、敷石を敷き詰めた広い道に合流し、眼下に街が見えてきた。ゆるやかに蛇行だこうする大きな川を中心に、石造りの白っぽい建物が密集して見える。思っていたより随分と大きな街だ。


 街道だという敷石の道はそれなりに人通りがあり、喧騒けんそうに包まれている。ポンチョを着た旅装りょそうの2人連れやほろの付いた馬車の列、果物の入った大きな籠を背負った人なども見える。


 俺はキョロキョロしても目立たないよう、カドゥーンじーさんに借りてきた麦わら帽子を目深まぶにかぶった。わかっていた事だが、ほとんど人の頭に大小形も様々な耳がある。プロレスラーのような見事な体躯の男の頭には、ちょこんと黒くて丸い耳が、キャラバンらしき馬車の御者ぎょしゃをしているおっさんの頭には白くて長い耳が、あのやや顔の横気味に付いているふっさふさの耳は、コアラのものに似ている。


 ダメだ衝撃的すぎる! 俺の中の常識が崩壊ほうかいしていく。唖然あぜんとして声も出ない俺の背中を、リュートさんがポンと叩く。俺はビックリして「ひうっ!」という間抜けな声を出して、飛び上がった。その俺の驚いた声にリュートさんも驚いたらしく、ビクッと身体を震わせる。俺たちはしばらく顔を見合わせた後、どちらともなく声を殺して笑った。


 街の手前で馬を降り、川沿いに歩く。徐々に人通りが増え、野菜や果物を軒先に並べた商店街を抜け、公園のようなベンチがある広場を抜け、リュートさんの家を目指す。


 サイコロのような正方形や、茶筒の円筒形をいくつもつらねたような家々。色とりどりの布製のひさしが大きく張り出し、その下にはテーブルでくつろぐ人や、積み木のような玩具おもちゃで遊ぶ子供たちがいる。


 二階や三階の窓には洗濯物が風に揺れ、ポンプ式の井戸の周りには赤ん坊を背負った女の人がいる。人々は原色のカラフルなポンチョを着ている。そして頭には様々な耳がある。異世界情緒と異国情緒の溢れる景色に、右手がうずく。あースケッチしてぇ!! せめて写メ撮らせてくれー!


 あちこちに目を奪われ、立ち止まり、質問しまくる俺に、リュートさんがニコニコしながら言った。


「ヒロト、楽しい?」


「すげぇ楽しい!!ワクワクする、ワクワクわかる? こう、楽しくてドキドキ、ワクワク」


 胸の辺りに手を置いて説明する。


「ワクワク、わかる。楽しくて、良かった」


 なにその包容力たっぷりの微笑み! 俺は子供みたいにはしゃいでいる事に気づき、ちょっと恥ずかしくなる。


「ヒロト、かわいい」


 からかいを含んだ声。


「リュート! てめぇからかってんな!」


 もう、さん付けとかやめだ! 俺はリュートにヘッドロックをかまして、頭を拳でグリグリする。俺コイツ好きだな!


 子犬の兄弟みたいにじゃれ合いながら歩く。迷惑な大人だ。


 リュートの家に着き、馬をうまやに入れ、荷物を置くとすぐにまた出かける。リュートは結婚はしているが子供はまだいなくて、嫁さんは今日は仕事だそうだ。


 今日の行動はあらかた打ち合わせ済みだ。図書館へ行き地図をこっそり写メに撮り、教会へ行って海のそばの街にある教会の情報をもらう。それから愉快な似顔絵屋さんの開店だ!


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