表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/181

ハル8さい

 

 オレンジ色とか、むらさき色とか、赤とか、見るたびにいろんな色に見える、おっきな夕日がしずんでいく。ケケケケケ、と笑い声みたいな鳥の声が、とおくのほうから聞こえてくる。ジー、ジジー、とあちこちでびっくりするくらいうるさく、虫の声がする。


 この世界の夕方は、けっこうさわがしい。


 ぼくのなまえはハル。二ノ宮、ハル。桜ざき第2小学校2年生、8さい。


 ぼくは今、おとーさんといっしょに、おばあちゃんちがある大きな岩の高いかべの上にいる。きゅうけい中だ。おじいちゃんといっしょに、にわとりを追いかけて、へとへとにつかれてしまったのだ。


 おじいちゃんはひょい、ひょい、ってかんたんそうににわとりをつかまえて、ポイって小屋に放りこむ。でもぼくが近づくと、にわとりはササッとよける。走って追いかけると、トトトトトーってにげていく。見てないふりして、サッと手を出しても、全そく力で走って追いかけても、尾っぽすらさわれない。


 おとーさんは、


「異世界のにわとり、半端ねぇのな」


 と言っていた。ちなみにおとーさんもつかまえられなかった。


 おとーさんがぼくから少しはなれて、たばこに火をつける。細いけむりが風にながれてすぐに消える。


「おとーさん、たばこ」


「うん? あー、お母さんが大丈夫そうで安心したお祝いだ。見逃してくれ」


 と、目をシバシバさせて言った。おとーさんはきんえん中だ。


 見たこともない、外国のしゃしんみたいなけしきが、目の前いっぱいに広がっている。おとーさんは、アメリカのグランドなんとかみたいだって言っていた。大きな岩やもりあがった地面に、赤いしまもようがある。


 ここはいせかいらしい。たぶん地球じゃあない。きのう、公園に行くとちゅうで、気づいたらこのせかいにいた。ゲームやマンガでしゅじんこうが、いせかいに生まれ変わったりしていた、あれは、こういう事だったのか。


 剣や魔法でモンスターとたたかうゲームは、とてもおもしろくて、むちゅうでおとーさんにしかられるくらいやったけど、ゆうべ大きな犬がおそってきた時は、足がガクガクふるえて、目をつぶってすわりこんでしまいたくなった。ぼくはよわむしだ。


 しゅぎょうしたら強くなれるだろうか。


 おじいちゃんとおばあちゃんの頭には耳がある。おじいちゃんの耳はピラっと薄くて茶色い。おばあちゃんの耳はモフっとしていて少し大きい。おしりにはしっぽもある。おじいちゃんのしっぽは細くてニョロニョロ動く。おばあちゃんのしっぽはフサフサでユラユラゆれる。


 ハナちゃんはおじいちゃんのしっぽを握ったり、おばあちゃんの耳をさわらせてもらったりしてるけど、ぼくは知っている。しっぽや耳は家族とこいびとしかさわっちゃダメなんだぞ。でも、ほんとはぼくもさわってみたい。


 このせかいにきた時、おかーさんはいなかった。信号のところで手をはなさなければ良かった。おかーさんはひとりで、海のそばのまちにいると言っていた。おかーさんはひとりでかわいそうだ。電話ですごく泣いていた。

 あんなに泣いているおかーさんは見た事がない。


 ぼくはもう、泣かないと決めた。おとーさんといっしょにハナちゃんを守らなければいけない。おかーさんが泣かなくてすむように、早くむかえに行けるように。


 ぼくはもう8さいなんだから。ぼくは男なんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ