悪の組織と魔女裁判
「ハルちゃ、とーたん! とーたん、たしゅけに、いこうよ!」
走りながら、クーのせなかで、ハナちゃんがぼくのせなかを、ポカポカと叩く。
「ううん。夜までかくれて、ロレンのお店にいくよ」
「なんで! とーたん、いじめられてたよ! ハナちゃん、もふもふになって、がぶって、かみついてやるよ!」
「いま行ったら、ぼくたちもつかまっちゃう」
「じゃあ、あくびに、おねがいしゅるよ! あくびなら、わるいやつを、がぶってしてくれりゅよ!」
「だめ。そんなことしたら、あくびがわるいトカゲになちゃう」
「とーたん、いじめるの、わるいひとだよ! わるいひとをやっつけるのは、ひーろーだよ!」
にほんにいるとき、テレビのヒーローがやっつけるのは、いつだってわるものだった。
あくの、そしきだった。
きょうかいは、あくのそしきなのかな。
ひまわりのおねえさんを、ぼくはやっつけてしまおうと思った。お父さんをころそうとしている、わるい人だと思った。
でも、ひまわりのおねえさんは、とってもかわいい、良いおねえさんだった。
じゃあ、なにがわるかったんだろう。だれがわるかったんだろう。
ぼくは、ハナちゃんにせなかをポカポカなぐられながら、ずっと考えていた。
「ハルちゃ、ばかー!!」
ハナちゃん、ばかって言った人が、ばかなんだよ?
クーに乗って、トルルザのまちを出で、かいどうをもどる。大きな岩を見つけて、かいどうから見えないばしょに、かくれた。
ほんとうはぼくだって、あくびにのって、お父さんをたすけに行きたい。こんなことをしているうちに、お父さんがころされてしまうかもしれない。
でも、ハナちゃんをつれて、きょうかいへもどるのは、ダメだ。ぼくはハナちゃんを、まもらなくてはいけないから。
しらたまとクロマル(毛玉ウサギの名前)をポンチョのポケットから出した。二匹はポンポン跳ねながら、嬉しそうにぼくたちの周りを回る。
ネギセロリをすりつぶして、ミルクとまぜる。しらたまとクロマルのごはんだ。クーはそのへんの草を食べている。すいとうからお水を手のひらに出して、少しずつのませる。
ぼくができるのは、こんなことしか、ないのかな。
なさけなくて、くやしくて、しらたまとクロマルの顔がゆがんで見えた。でも、まん丸なので、どこまでが顔かは、よくわからなかった。
もうすぐ日が沈む。そうしたら、ロレンのお店に行く。トルルザのまちのお店には、ロレンのお父さんがいるはずだ。
▽△▽
後ろ手に縛られて、拘束されてしまった。
ちょっと暴れちまったからな。まあ、ハルとハナが捕まらなくて、本当に良かった。
しかしなんだな。俺の人生で、本気で後ろ手に縛られるなんて事があるとは、考えた事もなかった。この後、尋問とか拷問とかされちまうのだろうか。
魔女裁判みたいな感じだな。あれも確か、扇動したのは教会だったな。うわっ、宗教怖え!
俺はザバトランガの教会の、耳なしに対する公的な見解を、知りたいと思っている。俺を、耳なしを、どうするつもりなのか。
そして、耳なしがこの地の人にした事を、知らなければならないと思っている。教会には、それが伝わっているのではないだろうか。確かにこの状況は危険だろう。だが、聞いてみるくらいは、できるかもしれない。
俺は実は、トプルに縄抜けの特訓を受けている。あらゆる形で縛られた場合の、対処法だ。特訓中は、どんな変態プレイだよ! と何度セルフ突っ込みを入れたことか。誰もが見て見ぬふりをするのが、何より辛かった。
そして、トプルはなんであんなに多彩な縛り方を知ってるいるんだ。また少しトプルがわからなくなった。
だが、お陰でたかが後ろ手に縛られたくらいでは、動じなくなったぞ! 袖の内側にニセンチ程度の、小さいヤスリが仕込んである。
さて、まずは相手の出方をうかがうとしよう。この世界の魔女裁判、見せてもらおうじゃないか。