2度目の通話
ハル、お父さん稼ぐより、カ◯ハメ波の練習したい。あとパフパフ。
「さゆりおばあちゃん、魔物はいるの? ゴブリンとかドラゴンとか」
「ゴブリンとドラゴンは聞いた事ないけど、危険な動物はいるのよ。日本よりずっと多いの。アマゾンの奥地と同じくらいかしら。あと、動物を狩るのをお仕事にしている人もいるわ、おじいちゃんも弓矢を使って狩りをしたりするのよ。お肉が食べられる動物もいるわ。でもレアアイテムがドロップしたり、宝箱が出たりはしないのよ」
さゆりさん、けっこう知ってるのね
2004年に23歳だったなら、俺とタメじゃねーか!
「さゆりさん、1981年生まれですか? 俺と同年生まれですよ!」
「あら! そうなの?不思議ねぇ、私はこんなにおばあちゃんなのに」
ハルの目が『???』になってる。俺も混乱してしまう。時間の流れが地球と違うという事だろうか。と言うことは、この世界で何年か過ごすと、地球では半分程度の時間しか経っていないということか。
それは困った事になるのでは?
まあ、それは今考えても仕方ない事だろう。
さゆりさんがジャムの鍋の様子を見に、土間へと行った直後、リュックからスマホの着信音が聞こえてくる。
ハルと顔を見合わせる。急いでスマホを取り出す。嫁だ!!
「ヒロくん、やっと通じたよー」
嫁の涙声が聞こえる。俺も泣きそうだ。
「泣くな! 状況説明しろ! 今どこにいる? 地名わかるか?」
「うぐっ、えっ、えぐっ。わかんない。言葉は全然通じないし、みんな耳生えてるしー! うわーん」
さゆりさんが小走りに戻ってきた。
「さゆりさん、ここの地名は?」
「この世界の言葉で、茜岩の谷。発音はサラサスーン」
ゆっくりと発音してくれる。
「ナナミ落ち着いて。俺たちはサラサスーン、って言うところにいる。地球から転移してきた、さゆりさんって人にお世話になってる。俺たちは大丈夫だ。絶対に迎えに行くから諦めるな!」
「ハルはー? ハナはー?」
「おかーさん! おかーさん!」
ハルが泣きそうな声で呼ぶ。
「飯は食べたのか? 寝るところはあるのか?」
聞きたい事、伝えたい事が多すぎて、早口になる。
ああ、またガーガーと雑音が入り出す。
切れないでくれー!
「ナナミ、ナナミ!」
ガーガーという雑音がだんだん小さくなる。
「驚いたわ。本当に電話が繋がるのね。14年でケイタイも、随分進化したのかしら」
さゆりさん、ソレタブンチガウ。確かにさゆりさんのガラケーからは進化してるけど。
あ、メール! メール送信してみよう。ワタワタと操作していると、メール着信通知が来る。俺もゆうべ打ち込んでおいたメールを急いで送信する。
今、教会っぽいところにいる。言葉は全然通じないけど、困ってる事は伝わったみたい。ごはんを食べさせてくれたし、泊めてくれた。お礼に掃除や洗濯の手伝いしてる。危険もないと思うし、シスターみたいな人も優しい。ヒロくんに会いたいよ。ハルやハナに会いたい。
教会か! 良かった。勝手なイメージだが、危険が少なくて、悪い人もいなさそうだ。安心したら力が抜けて、ドスンと椅子に座り込む。ハルにスマホを渡す。
ハルが声に出して読む。読めない字を教えてやる。
「ハル、急いでメール打て。お母さん、ハルに会いたがってる。あ、今いるところの地名、わかったらすぐ知らせてって書いてな」
ちゃんと食べて、寝てるなら大丈夫。アイツはへこたれたりしない。もりもり力が湧いて来るのを感じる。さっさと金貯めて、スパーンと言葉を覚えて、3人でナナミのいる街へ行こう。