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閑話 ハザン

あけましておめでとうございます。


「ヒロト、いいところに連れて行ってやる」からはじまる閑話シリーズ。しんがりを飾るのは、やっぱりこの人でした。この上なく頼りになるのに、なぜか頼りたくない暴れん坊将軍。三十路を過ぎても、落ち着きのかけらも見当たらないハザンさんです。はてさて、どこに連れて行かれるのやら。

「ヒロト、いいところに連れてってやる」


 ある日、ハザンが大岩の家のドアを開けるなり言った。


 そうか、とうとうハザンの番なのか。こいつに連れて行かれる場所なんて、R指定の場所しか思い浮かばない。


「ハルとハナとクルミも行くぞ! 用意しろ!」


 子供が一緒で大丈夫なのか?


「用意、必要はなに?」


「着替えと手ぬぐいだな! どこへ行くかはまだ内緒だ」


 風呂じゃねぇか! もうバレちゃったよ。


「男、女、一緒か?」


「あん? 全員子供じゃねぇか。問題あるのか?」


 クルミがぷーっと膨れる。


「私、子供、違う!」


「ぼくも子供、違う」


 いや、ハルは子供だから。つーか、お父さん、まだしばらくは子供のハルくんでいて欲しい。


 クルミは『乙女の肌は、そう簡単には晒せない』と、不参加を表明。ハルは乙女じゃないので行く事になった。


 ハザンが『なんだ、クルミは生理日か?』と、デリカシーのかけらも感じられない質問をして、クルミに飛び蹴りされていた。


 乙女、どこ行った。


 道中ハザンがしきりに『なんでバレたんだろう』と言っていた。


 それがわかるようになったら、嫁が見つかるかもな!


 しかし、茜岩谷サラサスーンは乾燥地帯だ。温泉があるとも思えないな。シュメリルールに公衆浴場があるとも、聞いたことがない。


 さて、太陽が中天を過ぎ、気温が上がってくる。干からびる前に、目的地に辿り着きたいところだ。



「見えてきた! あそこだ!」


 ハザンが指差した先には、干上がりかけた水場があった。


 茜岩谷サラサスーンのほとんどの水場は、地下水脈から湧き出した泉だ。気まぐれに移動したり、干上がったり、突然湧き出たりする。乾燥地帯の割に動物が多いのは、この水場の恩恵に他ならない。


 さて、干上がりかけた水場である。昼日中(ひなか)の太陽に照らされて、ほっかほかのドロドロだ。ハザンがいそいそとポンチョを脱ぎはじめた。


 えっ、ここなの? 風呂じゃないの? ここにドボンしちゃうの?


 ハザンがハルとハナを捕まえ、あっという間にポンチョとブーツを剥ぎ取ると、両手に抱えて『いっくぞー!』と叫んだ。


 ドップーン!!


 どことなく粘着質な音と共に、二人の歓声が響く。どちらかというと、ハルのは悲鳴に近い。


 ハザンの腰ほどの深さの泥沼だ。ハナは背がつかないだろう。慌てて俺もポンチョとブーツを脱ぐ。


 見ると、ハザンがハルとハナを背中に乗せて、泥の中を犬掻イヌカキで泳ぎはじめた。


 まあ、ハザンがハルとハナを、危険な目にあわせる訳ないか。俺は片足だけを泥の中に突っ込み、この後どうするか途方に暮れる。


 湯煎ゆせんにかけたチョコレートのようだ。暖かくトロトロとした泥が、足の指の間を通る感覚は、気持ちいいのか悪いのか、判断に迷う。


 ハナがユキヒョウの姿になり、浅瀬を転がりまわっている。ハルは、バタフライで泳ぐハザンの首にしがみつき、今度こそ歓声を上げている。二人とも頭からドロドロのデロデロだ。


 俺はこの後の洗濯の手間を考え、シャツを脱いでから、思い切って泥の中に沈み込んでみた。


 トロトロの暖かい液体に全身で浸かるなど、初めての経験だ。服のままというのがまた、背徳感のようなものを刺激して、形容しがたい感覚が込み上げてくる。つまり、やたらと、テンションが上がるのだ。


 雪の日に、誰もまだ歩いていない道に、足跡をつける楽しさと似ている。似ていながら、正反対とでもいえば良いだろうか。自分を汚す快感、開き直った気持ち良さ。


 しかしハルとハナを見ていると、大人であることが残念で仕方ない。これは子供の頃にやってみたかった。きっとたまらなく楽しい。


 肩まで泥に沈み込んだ、中途半端な姿勢のまま、自分の限界を思い知る。俺にはとてもハザンのように、泥の中からトビウオのように飛び出したり、鼻から泥を吹き出して見せたりなんてできない。それで得るものより、失うものの方が大きい気がする。


 ハザンが、子供たちと同レベルか、それ以上に楽しんでいるのを横目で眺めながら、俺はこっそりと、平泳ぎを楽しんだ。



これにて閑話シリーズ終了です。


三が日中には連載再開の予定です。それまで、しばしお待ちください。


良いお正月をお過ごし下さいね。今年もよろしくお願いします(。-_-。)ノテレッ

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