閑話 ロレン
「ヒロト、いいところに連れてってやる」からはじまる閑話シリーズ。第四弾はロレンさんです。
次は誰が良いですか? リクエストなどありましたらどーぞ!
年内になんとかもう一話、更新するつもりです。
「ヒロト、いいところに案内しましょう」
ある日、ロレンが大岩の家のドアを開けるなり言った。ロレンが言うと『地獄を見せてやろうか』みたいに聞こえるのはなぜだろう。すみやかに昇天する、そんな場所に連れて行かれそうだ。
「みんなで行きましょう」
俺の心情を知ってか知らずか、俺以外は全員歓声を上げ、ロレンはやたらニコニコと、まるで善良な青年ですよというように笑った。
ロレンはなんと、キャラバンの馬車を一台持って来ていた。一連の流れの通り今回も、行き先も目的も教えてもらえない。今回はさゆりさんや爺さんも一緒だ。大岩ファミリー御一行さま、いったい、どこに連れて行かれるのやら。
ハルがハナを連れて、馬車の幌に登る。御者席の後ろの、幌の骨組み部分に並んで座る。俺とハルのお気に入りの場所だ。
あの場所から二人で、ドルンゾ山の渓谷や、砂漠の景色を眺めた。潮の匂いのする風や、砂混じりの風に吹かれた。月の満ち欠けを数えたり、夕陽の沈む位置で方角を覚えたり。
ハナに見せてあげられなかった、ナナミと見ることのできなかった、たくさんの美しい風景が頭に浮かぶ。
ナナミとハナと、俺とハル。いつか四人で大陸中を旅するのも良いな。きっとまだ見ていない綺麗なものが、たくさんあるはずだ。
そんな日が、どうか早く来ますように。
俺は、世話になった覚えもない、この世界の神さまに祈りたい気持ちに、少しだけなった。
さて、俺があれこれ考えごとをしているうちに、ロレンプレゼンツのミステリーツアー、目的地に到着したようだ。
馬車から降りると、目の前にはこじんまりとした水場を中心にした、花畑が広がっていた。
茜岩谷で花畑といえば、致死毒の紫色の花畑しか見たことがない。おいロレン、大丈夫なのか?
「この花は毒はありませんよ」
その色とりどりの花畑は、チューリップを逆さにしたような、可愛らしい花が咲き乱れていた。しかも、風に吹かれて花が揺れ、シャラシャラと涼やかな音が鳴る。
「あら、シャオランゼの花畑、ステキね。こんなに群生しているのは初めて見たわ」
さゆりさんが馬車から降りながら言った。ハナが早速ユキヒョウの姿になって、花の間をすり抜けるように走ると、その後をシャラシャラという音が追いかけるように鳴る。
クルミちゃんが花を、そっと揺らして声を上げた。
「この花、色ごとに音程が違う! ホラ!」
へぇー! それは面白いな! 演奏ができるんじゃないか?
地球出身者がそれぞれ、花の音を確認する。
『さいたー、さいたー、チューリップの花が』
ハルが歌いながら花を揺らす。クルミちゃんとさゆりさんも後に続く。
『並んだー、並んだー、あか、しろ、きいろ』
みんな揃って『どの花見ても、きれいだなー』。
ロレンと爺さんが拍手する。
これは楽しいな!
その後、ロレンと爺さんのセッションによる、茜岩谷の民謡や、ハナのフリージャズばりの独奏がはじまり、クルミちゃんが踊り出す。さゆりさんによる、懐かしい日本の歌謡曲を演奏もあり、なんとも楽しい一日となった。