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扉の向こう側

「私は魔王になる決心をしたんですよ」


 ロレンがプリプリと怒りながら言った。


 おまえ、けっこう今でも魔王だと思うぞ。


 こちらの世界での魔王はほんとうに悪の象徴なので、黙っておく。俺のイメージでは魔王はダークヒーローに近い。


 全員で格納庫に入る。三人からは悲壮な決意みたいなものは消えていた。


「ヒロトがたいした事なくて良かった」


 リュートが言った。なんで誉めてるっぽい言い方なんだよ! 普通にヒドイ。


「ヒロト、これ。ぺっとぼるとだろう? どうやって加工するんだ?」


 じーさんが空飛ぶ船のフレームを持って聞いてきた。


 ペットボトルね。うん、強化プラスチックだとしたら仲間だな。


「ノコギリ、切る、ダメか? 歯の細かいやつ。細かいところはヤスリで削る」


「ヒロト! これ分解してみたい。なんで動くんだ?」


 リュートが引き戸を指さして言う。


「知らねぇよ! 分解しても俺にはたぶんわからない。俺よりじーさんの方が知ってるぞ」


「ヒロト、これ空飛ぶ船なんですか? なんでこんな粉々?」


 うーん、爆発の説明ってどうすればいいんだろう。


「火山、噴火、知ってるか? あんな感じ」


「耳なしはそんな事が出来るんですか!」


「俺は出来ない」


「ああ。ヒロトがたいした事なくて良かった」


 ロレンがほっとしたように言った。誉められてる気がしねぇよ!




「じーさん、他に部屋、あるか?」


「どうしても開かねぇ扉ならある」


 行ってみるか。




「ここに立つと」


 じーさんが言いながら、何の変哲もない(なく見える)岩壁の前に立つと、ピピっという電子音が鳴った。センサーが何かに反応しているのだろうか。手の平ほどの壁の一部が開き、レンズのついた四角い箱がせり出してきた。


「こいつが出て来るんだが、しばらくすると引っ込んじまう」


 何度かピピっという電子音と、ウィーンという作動音がして何かを読み取っている様子だ。


「一度引っ込まねぇように押さえて、出来るところまで分解した」


 金属質の箱はせり出した時と逆回しのように、壁に収まってしまった。


「わかったのはレンズのピントを合わせる機能だけだ。肝心な部分は開きもしねぇ」


 俺にしてみると、こんなもん分解しようと思うだけで、もう凄い。また元通りに組み立てられたなんて、更に凄い。じーさんは充分天才だと思う。これを元に俺とハルのゴーグルを作ってくれたんだな。


「これは、機械なんですか? この動きは何を意味している?」


 ロレンから質問が飛んで来る。


 確か目の光彩で識別するとか、人相を読み取る認証方法があったはずだ。入る人を選ぶ部屋なのだろう。説明が難しいな。リュートに間に入ってもらって、何とか説明する。


「空恐ろしい技術ですね。これは……、だから……」


 ロレンはなにやら考察モードに入ってしまったようだ。



 面白そうなので俺も壁の前に立ってみる。


 じーさんが立った時と同じように壁が開き、箱が出て来て、ピピ、ウィーンと音がする。


『ポーン』


 じーさんやリュートが立った時には、鳴らなかった音がする。クリア音だろうか。


『ガガガ、ジジジ、ガー』


 おそらく音声アナウンスが作動している。だが、雑音がひどくて聞き取れない。壁の別の部分が開き、赤く点滅を繰り返す。これも読み取り装置か?


 手をかざしてみる。


 反応なし。他に思いつかなくて、スマホを取り出してかざしてみる。


 ピピ、ピピピ、という電子音がしばらく続き、また『ポーン』という音が鳴った。


 えっ! スマホでイケるの?!


 全員に緊張が走り、起きるかも知れない何かに備える。俺も全身が強張るのを感じた。




 だが、何も起きなかった。しばらくすると読み取り装置部分の壁が閉じ、カメラが引っ込み、何事もなかったように壁は元通りになった。



 けっきょくその日は全員で格納庫に戻り、じーさんの質問に答えたり、リュートが工具を引っ張り出してなんやかんやを分解しようと頑張ったり、ロレンと耳なしについて話し合ったりした。




 開かなかった扉の中に何があるのだろう。一連の流れで、認証システムをクリアしたとしたら、一度目の要素はたぶん『耳なし』。これはあの場所が耳なしの施設だと考えると、充分にあり得る。二度目がわからない。身分証明のカードキーを提示する場面だと思った。おサイフケータイでもあるまいに、まさかスマホで反応するとは思わなかった。


 けっきょく扉は開かなかった訳だが、俺はなんだか、個人情報的なものを抜かれたような気がしていた。


 チカチカと赤く点滅していたカメラの向こうに、誰かがいたのではないか。そんな事を想像すると、何か得体の知れないものに首根っこを掴まれているようで、思い出す度に背筋に寒いものが走った。



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