格納庫
ロレンたちが外で色々話し合ってる時の、ヒロトの様子です。
そこはかなりの広さを持つ、まさに『格納庫』だった。
大きさも形も様々な、空飛ぶ船が見るも無残に壊されている。
耳なしの物語や人々の認識から言って、この船が飛んでいたのは少なくと100年以上は前なんじゃないかと思う。その割に劣化していないのは、密閉されていたせいなのか、金属の特性のせいなのか。
燃料と動力が気になるところだ。
あ! ウランとか原子力だったらどうしよう! 耳なしが地球由来の存在だとしたら、あり得るかも知れない。とりあえず例のマークを探す。換気扇みたいな三枚の羽の黄色い警告マーク。
マークは見当たらないが、安心する気にはなれなかった。
そもそも、この世界のウイルスや病原体、俺の知らない電波や有毒紫外線。食べ物や水の成分、空気中のなにか。考えはじめたらキリがない。今までなぜ無事でいられたのか、不思議になるくらいだ。この先その影響が出ないという保証はない。
俺は大きく深呼吸という名のため息を吐く。30年以上生活しているさゆりさんを信じるしかない。少なくとも耳が生えるまでの一年半で、健康に問題があったという話は聞いていない。
同様に、若い頃ここに入り浸っていたという、じーさんの健康を信じよう。
空飛ぶ船は後まわしにして、端末のようなものを探す。情報を管理するPCのようなものがないだろうか。地球の知識の固定概念が邪魔をするが、なるべく頭を柔らかくして探す。
音に反応する何かがあるかも知れない。音声入力のようなもの。
『教えてくれ』
『空飛ぶ船の操作方法は?』
英語か?
『please tell me』
この世界の言葉か?
『ルールー(お願い)、ウォッテース(教える)』
『ウォッテーナス(教えて)』
ダメか。起動してないか、そもそもそんな装置はないのか。
カメラのようなもの、ボタンっぽいもの、開閉する何か、スライドしそうなもの。体温に反応するかも知れない。片っ端から手で触れてみる。
反応なし、か。
空飛ぶ船を調べる。
鈍器で力任せに殴りつけたような跡もあるが、最終的には爆破、もしくは爆発したのだろう。フレーム部分を残して木っ端みじんだ。焼け焦げた跡もある。破壊跡には執念すら感じられた。
フレームを持ち上げてみる。驚くほど軽い。爆破レベルの衝撃でほとんど歪む事もなく、熱で変形した様子もない。強化プラスチックの類だろうか。これで全身鎧とか作ったら無敵だな。加工する方法がわからんが。
飛び散っている破片は金属に見える。手触りや匂い、落とした時の音も、俺の知っている金属と変わらないが、錆が浮いていないから、やっぱり未知の金属なのかも知れない。
耳なしと、この世界の人が戦ったのだろうか。人が死んだのだろうか。
エンジンや動力、操作盤なんかの、素人の俺が見てわかるようなものは残されていなかった。あるのかも知れないが、俺には見つけられなかった。
お手上げだ。
他にも部屋があるかも知れない。外にいる、じーさんに聞いてみよう。
格納庫があるなら、管理や操作をするための部屋がある気がする。
部屋から出ると、三人が深刻な様子で座り込んでいた。部屋から出てきた俺に気付くと、期待するような、心底困った子供のような視線を向けてくる。全員の耳がピクピクと警戒するように動いている。
なんだか、もの凄く居た堪れない。
『すまん、さっぱりわからん』
俺が頭を掻きながら言うと、三人から盛大に突っ込まれた。
だが、そのあとなぜか全員が、ほっとしたように笑った。