この世界の事を教えて下さい②
「僕はイラストを描く仕事をしていて、似顔絵も得意です」
仕事がら、いつもスケッチブックは持ち歩いていた。リュックからスケッチブックと72色入りの色鉛筆セットを取り出す。
「しかもこの時代にパソコンを使わずに、全て手書きで書く、古いタイプの絵描きです」
デフォルメしたさゆりさんの顔を描いてゆく。いくつかの色を使い分け、10歳くらい若い感じで、可愛らしく仕上げる。
「どうですか? 商売になりますかね?」
五分ほどで仕上げたラフな感じの絵だ。
「あらあら、可愛く描いてくれたのね。ふふ、ちょっと美化しすぎだけど、似てる気がするわ。これもらっても良いかしら」
「もちろん差し上げます。風景なんかの写実的な絵も、スマホのカメラ機能を使えば描けます。時間はかかりますけど」
さゆりさんは少し考えてから言った。
「イケるかも。この世界に写真はないし、肖像画を描いてくれる絵描きさんはいるけど、とても高価だったはずよ。可愛らしいタッチの絵も新鮮だと思うし、デフォルメされた絵も見た事がないわ。手頃な値段で書いてくれるなら、お金を出しても自分や子供の絵を描いて欲しい人は多いんじゃないかしら」
良かった。一芸持ってて本当に良かった。子連れ冒険者になってモンスターとか狩って、素材売って金稼ぐとか俺には絶対無理。
まずは俺の作風が、異世界で認められるかどうかだ。ゲームのディレクターにプレゼンする時より緊張する。なんせ家族の死活問題だ。
そのあと、この世界の獣の人の種類とか、政治形態の事なんかも聞いてみた。
この世界には、多種多様な動物の特徴を持った人たちが暮らしているらしい。種族ごとに特に別れて住んだりしてはおらず、犬猿の仲、みたいなものは少ないのだそうだ。
ファンタジー作品にありがちな、獣人は強さが全て! 1番強い人が王様! みたいな風潮も、特にはないようだ。みんなそれぞれが持つ特性を生かして、得意な事を職業とする人が多いのだと言う。
ファンタジー世界定番のエルフやドワーフ、妖精なんかはいないらしい。俺たちのような動物の特性を持たない、ただの人間もいない。でも、ねずみなどの耳の小さい人もいるし、熊やうさぎの人は尻尾が小さい。耳も尻尾もない俺たちが目立ったり、特に奇異な目で見られる事はないだろうと言われた。
ただ、親しくなると耳と尻尾については、やはり不思議に思われるかも知れない、らしい。
面白かったのが、プロポーズの方法だ。それにも動物の特徴が強く現れていて、強さをアピールするとか、ひたすら食べ物をプレゼントするとか、鳥の人などは踊るそうだ。求愛ダンスを。
俺、耳生えてこないで、羽生えてきたらどうしよう。踊れねぇし。あ、嫁もういるから平気だ。良かった。イヤまじで。
政治形態は意外な事に民主主義だそうだ。5年ごとに選挙があって、議会で色々話し合って決めるらしい。さゆりさんたち夫婦は、こんな荒野の一軒家に住んでいるから「議会とか政治とか関係ないわ」と笑っていた。税金も払っていないらしい。
貴族も奴隷もいなくて、みんな平等だ。虐げられたケモ耳少女とか、救って歩かなくて良いらしい。
ただ、この大陸以外には王政の国もあるんだとか。うむうむ、なるほど。
そんなこんなで、かなり長い時間話し込んでいたらしい。玄関のドアが勢いよく開いて、子供たちが飛び込んで来た。
「ただいまー!」
「た、らーまー!」
お帰り、と返すと、ハナが飛びついてくる。あー汗びっしょりだな。そして泥だらけだ。楽しそうな様子に、つい俺も口元が緩む。
「あらあら、泥だらけなのね。水浴びて、着替えましょうね」
さゆりさんは別の部屋に行くと、2人分の着替えと大きなガーゼのような布を持って来てくれた。
お礼を言って受け取り、井戸へと向かう。
「とーた!」
とーた、ってお父さんね。おとーたん、とーた。
「とーた! ギッコンギッコン、ハナちゃんやる!」
うん、井戸のポンプのハンドル操作をやってみたい、と。
「よーし、ハルも来い!」
ハナがハンドルにぶら下がる。お腹を支えて、ハルがハンドルを握って「んーーー!」と顔を赤くする。最初重いんだよな。
徐々にテンポが上がり、小気味好い金属音がして、水が吹き出してくる。
「「出たーー!」」
「おー! 出たなー」
大きなタライに水を張り、
「服脱げー、全部脱いじゃえよ」
ハナの半袖のワンピースをペロンとひっぺがす。しゃがみこんで膝に乗せ、パンツも脱がせる。
素裸になった2人の頭から、木桶で勢い良く水をかぶせる。
「キャー! キャハハハ!」
「ひゃー冷たい!でも気持ちいいよおとーさん!」
大喜びだ。東京にいる時より楽しそうだな、コイツら! まっぱで走り回るハナを捕まえて、借りた服を着せる。あーあ! 俺もビショビショじゃねーか。
借りた服には、パンツにもスカートや半ズボンにも、尻部分に尻尾用の穴が空いていた。




