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説得 ★

 まずは、この二人に相談するべきだろう。


 ある日の夜、俺はさゆりさんと爺さんに、ようやく切り出した。


「次の旅には、ハナを連れて行きたいんです」


 さゆりさんが口を開き、言葉を飲み込むようにして、また閉じた。


 爺さんが、眉間に皺を寄せ、顎髭あごひげじりながら言った。


「ヒロトは、そう言うだろうと、思った」


 とがめるような言い方ではなかった。それなのに俺は、叱られたような気持ちになる。


「しかも、三人だけで旅立とうとしてる」


 言い当てられ、二の句が()げなくなる。


「危険だわ」


 承知の上だ。


 たった二度の旅で、よく無事でいられたものだと思う事が、何度もあった。ドルンゾ山では山猫に襲われ、帰り道で灰色狼の群れに襲われた。砂漠では砂嵐に巻き込まれ、盗賊の襲撃を受けた。


 あの時、ハナがいたとしたら、俺は守り切る事が出来ただろうか。




 転移初日に、谷狼に襲われた、あの時とは違う。



 ある程度の距離さえあれば、スリング・ショットで対抗できる。逃げる隙を作るくらいは出来るようになったと思う。毎日のトレーニングで、ハルとハナを抱えて走るくらいの体力も出来たつもりだ。


「ヒロトさん一人で、二人を守るのは無理よ」


「違うよ、ばーちゃん」


 ユキヒョウ姿のハナを抱いたハルが、屋根裏部屋から顔を出して言った。


 コイツ、狸寝入りしてたな。


「ぼくと、おとーさんでハナちゃんを守るんだよ」


「ハルくん、でも」


「あくびだっているよ。三人でなら、きっとハナちゃんを守れるよ」


「でも、ハルくん」


「さゆり」


 爺さんが珍しく、さゆりさんの事を名前で呼んだ。


「おまえが例えば、どこか遠くでひとりで泣いていたら、俺は迎えに行く。リュートとパラヤを連れて」


 爺さんが異世界語で言った。


「そうね、行くわ」


「ああ、俺も行く」


 リュートとパラヤさんが隣の部屋から、ひょっこりと顔を出して言った。


 さゆりさんの顔が見る見るうちに赤くなる。


「……もう! 私が悪者みたいじゃない!」





 あれ? 説得、成功でいいの? 俺、最初のひとことしか喋ってないんだけど。



 さゆりさんは三人に囲まれて、とても幸せそうに、ぷりぷりと怒っていた。





▽△▽


 挿話 爺さんとさゆりさん



「さゆり」


「なに?」


「俺はおまえを閉じ込めたんだ」


「え? なんの話?」


「元の世界へ帰ってしまわないように、他の耳なしに会いに行ってしまわないように、この大岩の中へ閉じ込めた」


「ああ、知ってたわ」


「おまえに耳と尻尾が生えた時は、俺の呪いのせいだと思った」


「バカねぇカドゥーン。それはーー。呪いじゃなくて、愛っていうのよ」


「……ああ、うん。そうだな。俺も知っていたよ」


「パラヤ、この刺しゅう、すごく良いわね。とてもきれい」


母さんがハルくんのポンチョを指さして言う。私がガーヤガランで砂漠へ旅立つ二人に、贈った刺しゅうだ。ディエゴ(夫)が切り出してくれた色ガラスを、抱き込むように刺しゅう糸で図柄に入れ込む、私のオリジナルの手法だ。


「ええ、自信作よ」


フフンと、得意げに言う。


誰よりも母さんに、なによりも言って欲しかった言葉だ。いい年をして、嬉しくて目頭が熱くなる。


「でもポンチョや帽子にすると、重くなるからあまり色ガラスが使えないのよ」


「ああ、そうね。タペストリーや小物入れがいいかもね。バッグやアクセサリーにしても素敵」


「アクセサリー? どんな風に使うの?」


「そうね。フエルトに綿を入れて、それに小さい刺しゅうをするのはどうかしら」


「あら! 可愛いかも! 髪留めも良いわね」


「ふふふ」


母さんが嬉しそうに笑う。


「なに? どうしたの?」


「パラヤとこんな風に話しながら刺しゅうするの、久しぶりでとっても楽しいなと思って」


お嫁に行く前は、よく二人で色々なものを作った。紙に絵を描いて、図柄を考えるのも楽しかった。母さんは刺しゅうは誰よりも上手なのに、絵は見た事もないほど下手くそだった。それが面白くて家族でよく笑った。母さんは『みんなで笑うなんてひどいわ』と膨れながらも楽しそうだった。


私がお嫁に行って、リュートが家を出て結婚した。まだまだ元気な二人だけれど、寂しい想いをさせてしまっているのではと、いつも気にかかっていた。


ヒロトさんは旅から帰るたびに、色々なものを連れ帰ってくるらしい。ビークニャの子供やパラシュという大トカゲ、元気な女の子まで連れてきた。大岩の家が賑やかなのは、なんだか安心する。


次の旅では、奥さまを連れて帰れると良いのだけれど。

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